TOPプレビュー特別編「プレーオフセミファイナル」「ワイルドカード」プレビュー

最終節では大差。どうなる? 東芝対パナソニック戦
NECの”飛び道具”はサントリーを追い詰められるか?

熾烈な順位争いの末、4位にはNECグリーンロケッツが滑り込みプレーオフトーナメントの出場チームが出そろった。2月19日、秩父宮ラグビー場でのセミファイナルは、トップリーグ史上初の同日同会場開催。いよいよ優勝をかけた最後の戦いが始まる。そして、前日の18日は近鉄花園ラグビー場で、日本選手権出場権をかけてのワイルドカードトーナメントが行われる。トップ4への挑戦権を得るのは果たして?

 
レギュラーシーズン1位サントリーはNECの挑戦をはねのけられるか(写真はブレイクダウンで鍵を握るFLスミス)
photo by Kenji Demura (RJP)

 
最終節は東芝が圧勝(写真はボールを奪い合う東芝LO望月とパナソニックFB田邉。フォローするのはパナソニックLO飯島と東芝NO8豊田主将)。王者の巻き返しは?
photo by Kenji Demura (RJP)

第1試合で対戦するのは、東芝ブレイブルーパス(リーグ2位)とパナソニック ワイルドナイツ(3位)。最終節では東芝が59-25と圧勝したが、パナソニックは、HO堀江翔太ら怪我を抱える選手が大事をとって先発せず、この結果は両者の実力を反映しているとは言えない。

東芝の和田賢一監督は、「プレーオフに向けていい準備ができたと感じています」と前向きにとらえ、パナソニックの中嶋則文監督も「不甲斐ない試合をしてしまいした。次はこれぞトップリーグという試合をお見せしたい」と語った。焦点は、東芝の縦突進の連続をパナソニックが止められるかどうかにかかる。パナソニックの特徴は、粘り強いディフェンスからボールを奪ってのカウンター攻撃にある。東芝が崩し切るのか、パナソニックが切り返すのか。

スクラム、ラインアウトでは大きな差は出ないだろう。東芝は望月雄太、大野均の両LO、スティーブン・ベイツ、マイケル・リーチの両FLを軸に激しく前に出る。パナソニックでは、最終節で負傷退場したLOダニエル・ヒーナンが気になるところ。ヒーナンの「ビッグタックル」は東芝の選手を仰向けにするパワーがある。不在となれば痛手だ。パナソニックの明るい材料は強度の打撲で戦線離脱していた霜村誠一キャプテンの復帰。守備範囲の広い霜村の存在は防御に安定感をもたらすだろう。南アフリカ代表ジャック・フーリーとのCTBコンビが実現すれば強力なチャンスメーカーなる。僅差勝負必至だ。

第2試合のサントリーサンゴリアス(1位)対NECグリーンロケッツ(4位)は、チャレンジャーのNECが飛び道具を持っているところが面白い。リーグ最多トライゲッターとなったWTBネマニ・ナドロである。サントリーは小野澤宏時が復帰予定で、長友泰憲とのWTBコンビになる可能性が高いが、2人とも身長が大きいほうではない(小野澤180cm、長友176cm)。ナドロとの身長差は、15cm以上ある。NECは武器のひとつであるナドロへのキックパスによるトライを狙うだろう。ナドロ、そしてFLニリ・ラトゥを封じることは、サントリーが勝つために最低限必要なことだ。

「NECはディフェンスの強いチーム。そこをどう攻略するかにフォーカスしなくてはなりません」と、サントリーのエディ・ジョーンズGM兼監督。激しく前に出てくるNECの防御ラインに対して、いかにテンポよくボールを動かせるか。ボールキャリアが前に出て、間髪入れずにサポートの選手が走り込む。あふれ出るサポートプレーで防御を崩したい。

NECの岡村要ヘッドコーチが、サントリーの要注意選手としてあげたのは、ジョージ・スミス。ご存じ「ミスター・ジャッカル」だ。タックル後に倒れた相手から瞬時にボールを奪うプレーは職人芸。スミスを相手にしたときは、世界中のチームが彼の動きを封じようと徹底マークする。NECも倒された選手へのサポートを素早くし、スミスをスイープし続けなければ攻撃を寸断されてしまう。スミスを軸にブレイクダウン(ボール争奪戦)を見ていくのもこの試合の楽しみ方だろう。

日本選手権出場権めぐる戦いは接戦間違いなし

18日、近鉄花園ラグビー場での第1試合は、神戸製鋼コベルコスティーラーズ(リーグ6位)対リコーブラックラムズ(7位)の戦い。神戸製鋼は、最終節でサントリーを28-32と追い詰めるなど、トップ4に肉薄する力をつけてきた。FLジョシュ・ブラッキー、CTBジェーソン・カワウらの外国人勢も好調、FB正面健司も調子をあげてきた。リコーも、最終節のトヨタ自動車ヴェルブリッツ戦ではオールブラックスのマア・ノヌーが素早いロングパスと、パワフルな突進で大活躍。FBに入った横山伸一は相変わらずの俊足でタックラーを置き去りにした。

横に長いパスを使って防御の届かない位置にボールを運び、横山、小吹祐介らのスピードランナーが一気に防御を置き去りにするリコーに対し、神戸製鋼は、「ムービングラグビー」のスローガン通り、ボールを縦横無尽に動かし続けて防御の穴を作る。リーグ13試合の数字上では、攻撃ではリコー、防御では神戸製鋼に分がある。第9節での対戦では、リコーが後半投入の横山の2トライで逆転し、31-27で競り勝った。神戸製鋼のイージーミスが目立つ試合だった。神戸製鋼が攻撃の精度を高められるかどうか。

今季、見違えるようなスマートなラグビーを披露した近鉄は日本選手権出場をかけてヤマハ発動機と対戦(写真は攻守に安定感抜群のFB高主将)
photo by Kenji Demura (RJP)

第2試合は、近鉄ライナーズ(5位)対ヤマハ発動機ジュビロ(8位)。近鉄は、今季より就任した前田隆介監督のきめ細やかな指導でチームが生まれ変わった感がある。毎週、相手チームを分析し、それを落とし込んでの練習で選手が活き活き動いている。ヤマハ発動機も、清宮克幸監督就任で得点力が格段に上がった。リーグ13節での407点はパナソニック、東芝に次ぐ3位だ。11月12日の対戦では、35-16と近鉄が勝利。清宮監督は「ブレイクダウンで圧力を受けた」と完敗を認めた。今回も焦点はここだろう。

また、清宮監督と前田監督は早稲田大学の先輩後輩という間柄。11月の試合後、前田監督は言っていた。「清宮さんは、監督としては大先輩。早稲田大学、サントリーを率いて素晴らしい実績をあげている。清宮さんが監督になってヤマハは変わったと言われていた。僕も今年から近鉄を任され、変わったと言われるチームを作りたかった。新監督同士、絶対に負けたくなかった」。そのとき、清宮監督は「おめでとう」と声をかけたという。再戦でより強い気持ちでチームを作ってくるのは果たしてどちらだろう?

text by Koichi Murakami

最終節でサントリーを追い詰めた神戸製鋼はリーグ戦では惜敗したリコーへのリベンジを果たせるか(写真は最終節に続いて先発起用されるPR安江)
photo by Kenji Demura (RJP)

──── 注目のプレーヤー ────

堀江 翔太(パナソニック ワイルドナイツ HO)
W杯でも証明。世界で通用する突破力と仕事人ぶり

海外からやってきたコーチや選手に、「トップリーグの中で世界に通用する選手は?」と問いかけると、必ず「ホリエ」の名があがる。帝京大学時代はFW第三列でそのすさまじい突破力を見せつけていたが、上背のなさもあって、HOに転向。日本代表、三洋電機ワイルドナイツ(現パナソニック)では、スクラムの要、ラインアウトのスローイングとさまざまな職人仕事をこなしながら、ボールを持てば必ずゲインし、ピンチをふせぐタックルを繰り出し続けている。

昨秋のワールドカップでは世界の一流選手を相手に身体能力の高さを見せつけた。直後に開幕したトップリーグでも開幕戦から全試合に出場。霜村誠一キャプテンが怪我のために戦線離脱した第6節から12節まではゲームキャプテンを務めた。試合後の記者会見では飾らない口調で試合を振り返り、その受け答えは報道陣にも好評だった。

「ようやく顔も知られてきて、(試合中に)マークが強くなってきましたね。少しはHOっぽくなってきました」。最終節は、肩の調子も悪く大事をとってリザーブ席に座った。後半18分から出場して追撃のトライをあげたが、チームは大敗だった。「接点で差し込まれていた。東芝が勝利への意欲で上回っていましたね」。ただ、フル出場しなかったことで、身も心もリフレッシュできたという。「セミファイナルでは、先発できる喜びをかみしめてプレーしたいです」

グラウンドの激しいプレーからは想像できないが、趣味は楽器いじり。母親が音楽の先生だったこともあって、少年時代から常に音楽が近くにあった。中学からはフォークギターで、「山崎まさよし」や「ゆず」を奏で、沖縄三味線や三線も持っている。昨秋W杯時はNZの人たちとの交流の際、堀江が三線を弾きみんなで日本の歌をうたったという。現在は、時間があると楽譜をにらみながらキーボードで遊ぶ。「20年後くらいに一曲聞かせられるくらいで、ゆっくりですけどね」

プレーオフセミファイナルの相手は、最終節と同じ東芝ブレイブルーパスだ。「プレーオフに進出したチームは、どこもフィジカル。近場をガツガツ攻めて、スペースができたら外に展開するタイプ。東芝は特にシンプルに縦につないでくる。フィジカルで勝りたいですね」。リフレッシュした堀江翔太が東芝相手にどんなプレーを見せてくれるのか。最初のコンタクトから目が離せない。
堀江翔太(ほりえ・しょうた)◎HO。1986年1月21日生まれ。身長180cm、体重104kg。大阪府立島本高校→帝京大学→三洋電機ワイルドナイツ(3年目)。日本代表キャップ17。2010-2011ジャパンラグビートップリーグMVP
photos by Kenji Demura (RJP)

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