トップリーグ 2017-2018 ウィンドウマンス座談会3

後編=いま見逃せない注目選手、終盤戦の見どころ

松島、姫野、松田など若手ジャパン組の成長ぶりは?
順位決定戦を見据えた各チームの駆け引きにも注目を

瓜生靖治、後藤翔太両氏を迎えてのウィンドウマンス座談会コラム。連載3回目となる後編では、12月2日に再開される終盤戦に向けて注目選手や見どころに関して語ってもらった。

(司会・構成 出村謙知)

──ここまでも何人かの選手の名前は出て来ていますが、改めて今季、特に終盤戦注目の選手を何人か挙げてもらうと。

瓜生 まずサントリーでは松井選手(千士=WTB)。ビジョンがとてもしっかりしているように思います。大学時代にかなり注目されましたが、その位置に満足はしたくないということで、サントリーを選んで厳しい世界に身を投じていった。シーズンが深まるにつれて、スタメンも増えて充実した選手生活を送り始めているなと感じています。

──彼くらいの実績というか、ネームバリューがあって、ストロングポイントを持っている選手なら、いきなり最初からもっと試合に出ていてもおかしくなかったと思うのですが、そのあたりにもサントリーの底力を感じます。

後藤 サントリーでは松島幸太朗(FB)もすごいと思います。何がすごいって、あのレベルに達してからもどんどん成長しているところ。進化が止まらない。
たとえば、大学から社会人になって、環境が大きく変わるなどして、それらの刺激によって、「成長しました。良くなった」というのはよくあって、それはそれですごいのですが、これだけトップレベルの選手になっても毎年、極端な話、毎試合パフォーマンスが上がっているように見えてしまう。そういう選手はなかなかいない。

瓜生 松島選手は現在、日本代表やサンウルブズでも活躍して、まだまだ成長していますが、トップリーグでコンスタントにプレーしながら成長していきそのレベルまで到達した選手だと思う。彼はトップリーグでプレーする事で海外でも通用する選手に成長できるという事を体現してくれている選手の一人だと思います。個人的にそういう事例は嬉しいですよね。

──寡黙なイメージのある松島ですが、試合中など周りにかける言葉が的確で、松島の言葉によってチームがグッとまとまることがよくあるという話も聞きます。海外でのプレー経験も豊富だし、いろんな目を持っている選手なのかもしれません。

後藤 だからこそ、言葉が効くのかもしれませんね。普段、そんなに口数が多くないけど、ラグビーのことをしっかり考えているからこそ、いざという時のひと言が効くというか。サントリーではそれができないと外されるということ。

着実に成長を遂げるサントリーWTB松井といきなりフル稼働のパナソニックLOワイクス photo by Kenji Demura

着実に成長を遂げるサントリーWTB松井といきなりフル稼働のパナソニックLOワイクス
photo by Kenji Demura

──正しい競争原理が働いている感じですね。
やはりジャパン組ですが、トヨタ自動車の姫野(和樹=FL)の急成長ぶりは本当にすごい。いきなりキャプテンに指名されたのも驚きでしたが、ジャパンでもレギュラーポジションを取ってワラビーズ、トンガ、フランスに十分通用していました。

後藤 帝京大ではあまり出ていなかったですよね。

瓜生 怪我をしていましたしね。ただ、大学入学時から彼の身体能力は高かった事は確かです。今の海外の選手にも通用する姿もうなずけます。

──トヨタ自動車は姫野、ヘンリージェイミー(WTB)、ジュアン・スミスは残念なかたちになってしまいましたが、新戦力という意味でも、いい補強ができた感じはあります。
あと、ジャパン組の新人にはパナソニックの松田力也(SO)もいます。

後藤 プレーぶりは全く新人に見えないですよ。

瓜生 パナソニックだと2年目ですけど、森谷選手も相変わらずスタンダードの高いプレーを続けている。なぜ代表に選ばれないのか不思議なくらい。あと、サム・ワイクス(LO)も実直なプレーが目をひきます、彼の存在も効いている。

ジャパンでもおかしくないとの声も多いパナソニックCTB/FB森谷。12月2日は恒例のゴジラ・デイ photo by Kenji Demura

ジャパンでもおかしくないとの声も多いパナソニックCTB/FB森谷。12月2日は恒例のゴジラ・デイ
photo by Kenji Demura

──パナソニックにきて顔つきが変わったという話もありますね。

瓜生 東芝の石井選手(魁=WTB)も代表に呼ばれてもおかしくないポテンシャルを持っている。トップ選手達との違いを見つけて、そこを目指していけばまだまだ成長するような気がします。トップスピードの速さだと福岡選手(堅樹=パナソニックWTB)に追随するのでは。
──NTTコムでは、牧野内選手の評価も高いですよね。「法政っぽいタックル」をするとか。
そのNTTコムにNTTダービーで敗れたNTTドコモではパエアミフィポセチの10番が面白い。彼のところで前に出たり、パスも意外と言ってはいけないけど、うまくて、アタックの幅が広がる感じがありました。

瓜生 ヤマハ発動機の堀江選手(恭佑=NO8)の突破力は相変わらず凄い。わかっていても止められない。鉄の塊が走っていうような重量感がある。

後藤 リコーの濱野(大輔=CTB)もいい選手ですね。大きくないけど。当たり前のことを当たり前にできる。決して、運動能力が特別高いわけではないと思うんですけど、ああいう選手がひとりいるとチームは締まる。

瓜生 爆発的なランでは今年キヤノンに入団したサウマキ選手(ホセア=WTB)はすごいです。

──現在8トライでトライ王も狙えます。キヤノンでは150試合を達成した菊谷も神戸製鋼に勝った試合では頑張っていた。

瓜生 記念試合だけではなく、後半節もまだまだ頑張ってほしい。笑
硯上
後藤 あと、NECの瀧澤(直=PR)、臼井(陽亮=HO)、権丈(太郎=FL)吉廣(広征=FB)も本当にがんばっているので、注目選手に加えておいてください。

2年目のCTB濱野の成長ぶりも今季のリコーの躍進を支える要素のひとつ photo by Kenji Demura

2年目のCTB濱野の成長ぶりも今季のリコーの躍進を支える要素のひとつ
photo by Kenji Demura

トップリーグ再開日の12月2日はゴジラDAY
最終節は“府中”“複合機”、2つのダービーも

──残り4節となったレギュラーシーズン、ファンとしてはどんなところに注目していけばいいでしょう。

瓜生 今シーズンはリーグ戦の後に順位決定戦が残されていますので、そこでベストメンバーが組めるように、チームは色々考えていると思います。この試合は主力を休ませておこうとか、単純な試合の戦術だけではないシーズン戦略みたいなグランド外の駆け引きも楽しめるのではないでしょうか。前節のメンバーと見比べながら、最終的にはこういうメンバーでこういうラグビーをするために、いまはこの辺を休ませて、こういう部分を試しているのかなとか。

勝ち点を見比べて、このチームは何位決定戦に進むことを狙っているのかとか、どこを目指して戦っているのかなど、各チームによって違いが出てくる部分があると思うので、ファンの方々にはそのあたりにも注目して見てもらえると、いままでとは少し違った楽しみ方ができるのはないでしょうか。カンファレンス制になった事でそういう部分が明確になったと思うので、そんな観点から見てもらっても楽しんでいただけるかなと。

──そのカンファレンス制ですが、同じカンファレンス内のチームと総当たり戦をする一方で、違うカンファレンスとのチームともそれぞれ6試合ずつの交流戦を戦う。
いろんな要素がカンファレンス内の順位決定に影響を及ぼす可能性もありますね。

瓜生 交流戦に関しては昨季の順位の近しい相手と試合をするというのが基本になっています。それによって試合の均衡化をはかる。大差がつく可能性のある試合をなるべく減らそうと意図したことが、今シーズンの交流戦の最大の特徴です。日程的に総当たり戦ができないので、そういうかたちを取らざるを得なかった。
現在、2つのカンファレンスで勝ち点の差がでてきてしまっている。後半節も違うカンファレンスのチームとの対戦結果によって、順位の影響が出てくることが予想されます。

──確かに、この時期になってくるとチーム関係者は勝ち点の計算ばかりするという話は聞きます。「あのチームはこの試合では勝ち点は取れないだろうからこっちは勝ち点5を狙いにいくぞ」みたいな。それこそカンファレンス内で2位になるか3位になるか、あるいは6位になるか7位になるかでは雲泥の差になってしまうので、そういう熾烈な順位争いを各チームがどうやって制していこうとしているのかにも注目してほしいですよね。

後藤 少しトップリーグの現状うんぬんとは離れてしまうのですが、この前の日本代表とオーストラリアの試合、札幌で行われてたパブリックビューイングに行っていたんですけど、気温は結構下がっていたのに、すごい熱気だった。とても嬉しくて、各地でラグビーが浸透してきているのも感じますし、盛り上げようという取り組みも伝わってきます。
だからトップリーグで戦っているチーム、選手には『ラグビーは楽しんだぞ、魅力的なんだぞ』と感じてもらえるようなプレーをしてほしい。

ラグビーという競技があって、見にきてくれる人がいて、そういう見にきてくれるファンの層が増えれば増えるほど、ラグビーの価値が高まるということだと思うので、観客動員という面がものすごく大事になる。
そのためには、ラグビー自体がより魅力的なコンテンツになっていく努力を続けていくことが重要になるので、選手、チームスタッフには、来てくれた人にいいプレーを見せて、喜んでもらって、『楽しかったな。また来たいな』と思って帰ってもらうというのが、自分たちの使命なんだというのをしっかり理解した上で最後まで戦い続けてほしい。

──札幌のパブリックビューイングはどういうところで?

後藤 ファクトリーという大きな商業施設で、ちょうどクリスマスツリーが点灯された直後だったり、かなり多くの人たちに来てもらえたみたいで、盛り上がっていました。

──「リーチ、リーチ、行け〜、行け〜」みたいな?

後藤 そうそう(笑)。本当に全国各地、いろんなところに潜在的なラグビーファンはいると思うので、選手もスタッフも「見られているんだ」というのを意識して、お客さんに喜んでもらえるようなラグビーを見せたいという気持ちで取り組んでもらいたいですね。
順位決定と関係なく、最後まで戦い抜いてもらいたい。

瓜生 あくまでも有料のチケットを買って見に来ていただいているファンの前でプレーしているわけですから、チームは最後まで戦い抜くという姿勢は当たり前だし、選手達にはトップリーガーという存在自体がラグビーの魅力を伝えることができる立場だという意識をもっと身につけていってもらいたいです。

──今シーズンは、10月21日に熊谷で行われたパナソニックーサントリー戦でTシャツが配られたり、試合に合わせて各開催地の特徴が出るようなイベントも組まれていますが、今後の注目イベントなどは。

瓜生 12月2日は毎年恒例のゴジラデーが秩父宮で。あと、最終節(12月24日)には府中ダービー(サントリー×東芝)、と複合機ダービー(リコー×キヤノン)という2つのダービー戦が予定されています。

──後藤さんは、現在、株式会社識学で様々なスポーツ分野で組織向上のためのトレーニングやサポートをされているとのことですが、そういう観点からトップリーグを見て気がつくことはありますか?

後藤 この対談中に出たキーワードを拾ってみても、規律だとか、まじめさとか、当たり前のことが当たり前にできているチームは強いとか、結局は組織として優れているところがいい成績を残すというのは絶対的と言ってもいい事実だと思うんです。僕がいまやっている「組織学」の中で伝えているのもそういうこと。「組織の輪郭はルールでつくる」とか。
結局、難易度の高いルールを守ることのできるチームが強い。チームの順位ってそれに則っていくもの。
ラグビーに勝つためには組織が強くなる必要があって、それはイコール「当たり前の基準を上げる」ということだったりする。

瓜生 ラグビーの魅力は「組織学」的なところにあるというのは私も感じていて、トップリーグとビジネスの共通点というのは今後突き詰めていきたい部分、ひとつのキーワードだったりします。
ラグビーは他の競技に比べて生ものの要素が強いというか、携わっている人間の感情だとか、それまで準備をしたモチベーションなどが、即座に反映されやすいスポーツだと思っていて、それは組織学的なものに通じる部分も多い。
そういう感覚でもトップリーグの運営に携わっていきたいと思っています。

──ラグビーはコンタクトスポーツだし、プレー人数も多い。しっかり組織をつくらないとなかなかいいチームにならないし、しっかりした組織をつくれば成績も上がっていく、そういう図式が成り立ちやすいのは確かである気がします。

後藤 ごまかしがきかないですよね。だからこそ、積み上げには時間がかかるし、それが番狂わせが起こりにくい理由かもしれない。ラグビーチームとしてしっかりした組織をつくることと、ビジネスで成功することの間にはイコールの部分もあって、だからこそ一流企業のトップの多くがラグビーを好む傾向があるということかなという気もします。
ラグビーは組織を強くしないと勝てない。何人かいい選手が取るぐらいの発想では勝てない。それは絶対的な真理ですね。

(完)

瓜生靖治(うりゅう やすはる) 1980年生まれ、福岡県出身。小倉高、慶應義塾大を経て、2002年にサントリー入社。2003年9月13日に国立競技場で行われた記念すべきトップリーグ創設後最初の試合(サントリー - 神戸製鋼)にWTBで先発出場するなど、サントリーの主力として活躍した後、2006年に神戸製鋼に移籍。さらに2008年にリコー、2009年にキヤノンと、日本人選手としては珍しく4つのトップリーグチームでプレー。2012年に現役を引退した。日本代表としては2000年のサモア戦で初キャップを獲得(計2キャップ=CTB)。現在は日本ラグビーフットボール協会Top League Next PROJECT MANAGER

瓜生靖治(うりゅう やすはる)
1980年生まれ、福岡県出身。小倉高、慶應義塾大を経て、2002年にサントリー入社。2003年9月13日に国立競技場で行われた記念すべきトップリーグ創設後最初の試合(サントリー – 神戸製鋼)にWTBで先発出場するなど、サントリーの主力として活躍した後、2006年に神戸製鋼に移籍。さらに2008年にリコー、2009年にキヤノンと、日本人選手としては珍しく4つのトップリーグチームでプレー。2012年に現役を引退した。日本代表としては2000年のサモア戦で初キャップを獲得(計2キャップ=CTB)。現在は日本ラグビーフットボール協会Top League Next PROJECT MANAGER

後藤翔太(ごとう しょうた) 1983年生まれ、大分県出身。桐蔭学園高、早稲田大を経て2005年に神戸製鋼入社。1年目よりレギュラーSHとして活躍し、2005 - 2006シーズンのトップリーグ新人王に。同年のウルグアイ戦で日本代表初キャップを獲得(計8キャップ)。2012年に現役を引退し、2013年から3年間、追手門学院大女子7人制ラグビー部ヘッドコーチを務め、現在は株式会社識学のスポーツ事業部長として様々なスポーツ分野で組織をよくするためのトレーニング、サポート事業を行う傍ら、J SPORTSなどでラグビー解説者としても活躍

後藤翔太(ごとう しょうた)
1983年生まれ、大分県出身。桐蔭学園高、早稲田大を経て2005年に神戸製鋼入社。1年目よりレギュラーSHとして活躍し、2005 – 2006シーズンのトップリーグ新人王に。同年のウルグアイ戦で日本代表初キャップを獲得(計8キャップ)。2012年に現役を引退し、2013年から3年間、追手門学院大女子7人制ラグビー部ヘッドコーチを務め、現在は株式会社識学のスポーツ事業部長として様々なスポーツ分野で組織をよくするためのトレーニング、サポート事業を行う傍ら、J SPORTSなどでラグビー解説者としても活躍

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