TOPマッチレポート「特別編座談会」トップリーグ前半戦を斬る!【前編】

前編 / 中編後編

ウィンドウマンス特別企画
TOPマッチレポート特別編"TOPスペシャリスト座談会"
永田が、村上が、稲垣が、トップリーグ前半戦を斬る!【前編】


■出席者(五十音順) 稲垣 純一 (トップリーグ部門長)
永田 洋光 (ラグビーライター)
村上 晃一 (ラグビージャーナリスト)
■進行/構成 出村 謙知 (フォトレポーター)

10月23、24日に行われた第7節終了後、代表チームの活動を優先するウィンドウマンスの中断期間に入ったトップリーグ。前半戦を終えた今季のトップリーグに関して、専門家たちはどんなふうにとらえているのか。目立ったチーム、活躍した選手、ベストフィフティーンは? 全体的な特徴はあるのか? 後半戦の見どころは?
忌憚ない意見が飛び交ったTOPスペシャリスト座談会の様子を、前編、中編、後編の計3回に渡って紹介。まず前編では、"4強"の戦いぶりにスポットをあてる──。


軸になる選手が揃って好調。安定感抜群だった三洋

──前半戦の7節を終わって、唯一全勝を守るなど、三洋電機(7勝0敗/勝ち点33=1位)の充実ぶりが際立っています。

村上:当然、開幕前から三洋は強いと思われていたわけですが、その予想を遥かに超える強さを発揮していると思います。過去のシーズンよりも安定感が出てきているというか。
WTBの山田章仁(25=今季ホンダから移籍)に代表されるように、補強した選手がちゃんと機能していて、例えばチームの柱とも言える霜村誠一キャプテン(29=CTB)なんかがケガをしても、バックアップの選手が遜色ない活躍を見せて、しっかり穴を埋めることができる。

稲垣:三洋に関しては、軸になる選手が揃って好調なことも快進撃を続けている要因でしょう。ヒーナン(28=LOダニエル)が凄いプレーを見せ続けているし、今シーズンは劉 永男(27=LO/FL)が相当機能している。あと、堀江(24=HO翔太)。この3人が核になって隙のないFW陣を形成している。

──堀江はHOになってまだ2年経ってない。本当に凄いですね。

永田:そういう突出した選手というのはどのチームにもひとりはいると思うんですけど、三洋の場合、そういう凄い選手が突出しない。ベストフィフティーンを三洋の選手で揃えてもおかしくないくらい、全員のレベルが高い。

稲垣:一番苦戦した近鉄戦(10月9日/○12-9)を見たんですが、スコアは12-9だったんですけど、三洋が負ける気は全然しなかった。近鉄が攻めてもどこかで止められる感じは最後まで変わらなかった。飯島均監督も言っていたとおり、近鉄戦の三洋はアタックではコミュニケーションが悪くて、うまくいかなかった面もあったんですけど、DFの面ではまったく崩れていなかった。

──三洋のDFは本当に崩れないですよね。スペースが常に埋められているというか。

村上:三洋の選手はあんまりポイントに入ってこないんですよね。ブレイクダウンでの見極めが凄くいい。あまりガツガツした練習はしないで、どのタイミングで、どうやって入るか、判断やスキルを磨くような内容のトレーニングが多いみたいですね。

永田:NTTコムの木曽一(32=LO/FL)が言ってたんですが、三洋はブレイクダウンに入ってこないから、NTTが人数をかけてボールを奪い返そうとするんだけど、三洋はあくまでも少ない人数で対抗して、そこからボールを大きく振ってくる。NTTはFWが集団で長い距離を走らされることになってしまって、最後にバテていた。ひとりひとりの強さとかうまさとか、そこで何をしなきゃいけないのかというラグビーに関する理解度などなど、相当高いレベルにある。

稲垣:あと、三洋に関して強調しておきたいのは反則の少なさ。シンビンも年間1、2個。フェアプレーをしてくれるチームが強いという意味では、トップリーグの理想に近いチームということが言えると思います。そのあたりにもっと多くのチームが目を向けてくれるようになると、さらにトップリーグのレベルが上がっていくような気がします。

後半戦で爆発か。東芝は立ってつなぐラグビーで新境地に

──その三洋に開幕戦で敗れた昨季のトップリーグ王者の東芝(6勝1敗/勝ち点31=2位)は、その後もNTTコムにも苦戦したり、序盤戦ちょっとつまずいたような気もしたんですが、どう見ていますか。

村上:今年の東芝に関しては瀬川智広監督が「とにかく立ってプレーして、ラック作らないで行くんだ」と夏に宣言して、開幕戦でもガツガツ行った。
トップリーグで自分たちのやりたいラグビーを貫くというのはなかなか難しいんですよね。どのチームもレベルが高いので。その中で東芝はリスクを背負いながらも、自分たちのラグビーを貫こうとしていて、内容的にも開幕戦の頃よりも良くなってきている。

稲垣:東芝は毎年こんな感じなんですよね。チームに波があるというか。いつもシーズン途中は「東芝、大丈夫かな」なんて思わせるんですけど、それでも最後は仕上げてきて、終わってみれば東芝が優勝していた、みたいな。1年通してずっと強くはなかったりする。

永田:三洋とかサントリーがあまりブレイクダウンにこだわらないボールを動かすラグビーやっている中で、東芝の例えば相手のラックをめくり上げてボールを奪い返すとか、そういうFWのこだわりは凄く面白い。
やはりブレイクダウンにこだわりを持つNECと対戦した時、NECがラックでめくられて、倒され続けていた。東芝はそれから波に乗ってきている感じがしています。

稲垣:確かにあのブレイクダウンは凄いですよね。基本的に体をしっかり当てて、みんなでゴーフォワードしていくというのが全員でできている。FWだけじゃなく、BKの選手にも徹底されていますね。

──ブレイクダウンでの迫力が戻ってきているし、例によって後半戦チーム力がどんどん上向きになっていきそうな気配がします。

稲垣:東芝は必ずプレーオフには残ってくるでしょう。

村上:やっぱり、三洋にとって一番嫌なチームなんじゃないですか、東芝は。

共に2敗ながら攻める姿勢を示し続けたサントリーとトヨタ

──今季からエディー・ジョーンズ監督が指揮を執るようになって、超攻撃型ラグビーに取り組んでいるサントリー(5勝2敗/勝ち点26=3位)はどうでしょう。

村上:今年はサントリーのチームづくりが一番わかりやすい。春に走り込んで、体を絞り込んで、シーズン入ったら筋力をつけながら、攻撃の精度を高めていく。そういう意味では、後半戦が本当に楽しみですね。開幕したばかりの9月の頭だけは、暑さもあってキックもちょっとは入っていましたが、あとは本当に一貫してアグレッシブに攻め続けているんで、1月のプレーオフの頃にはメチャクチャ強くなっているかもしれないという、そういう期待感はあります。プレーオフに残ってくれれば、ですが(笑)。

永田:サントリーに関しては、あの攻撃的なスタイルをやり始めたら、最初の3週間は絶対に苦戦するだろうなとは思ってて、実際、苦戦が続いたんですが、その後、勝ち始めたら毎試合、勝ち点5ずつを確実に取るようになった。
得点力という意味では本当に凄いし、このまま勝ち点5ずつを積み重ねていければ、チームとしての自信にもつながっていくんだろうなという気はしています。

稲垣:エディー・ジョーンズという人はもの凄く理想が高くて、それを追求する人なんですけど、最初はうまくいかない傾向がある。ブランビーズでも、ワラビーズでもそうでした。
彼が貫こうとする理想に選手たちがどのくらいついてこられるかがポイントかなと思っていたんですけど、想像していたよりも早い時期に選手たちがついてこられるようになったなという感じがしています。
NEC戦(9月19日/●20-25)を見た時には、「今年は6位くらいかな」と思ったんですけど、前半戦の最後のほうの試合では、みんなに攻める意識が徹底されるようになってきて、「もうキックなんて考えていない」という動きが徹底されている。SHに起用されている日和佐(篤=23)の動きに全員が反応して攻め続けるようなシーンが増えているので、後半戦にはもの凄く期待しています。ヤマハ戦(10月23日/○72-0)で、リードしているのにホーンが鳴った後、自陣ゴール前から攻め始めた姿勢も素晴らしかった。

──個人的には、そのサントリーに勝った初戦(9月4日/○18-10)を見て、「今年のトヨタのひとりひとりが前に出る迫力は凄い」と感じたんですけど、その後、格下と言っていい相手に取りこぼしていたりするトヨタ自動車(5勝2敗/勝ち点25=4位)に関しては?

稲垣:9月の時点では、このチームのまとまりは凄いなと思っていたんですけど、なんでこうなっちゃったのかな(笑)。

永田:トヨタがNTTコムに負けた試合(10月9日/●10-13)で、雨の中、攻め続けるトヨタを見て、「そんなに攻めなくてもいいのにな」と思っていたんですが、朽木監督は「長いシーズンを戦っていくプロセスのひとつなんだから、自分たちのやろうと決めているラグビーをやるということに重きを置いている」ということでした。

稲垣:確かに、負けた時のトヨタは無理な試合をしている。もう少し余裕を持ってプレーしてもいい気がするのに、無理にクイックで行ってみたり、雨の中、正面のPGを狙わなかったり。その辺の冷静さも必要なのかもしれませんね。

村上:優勝を狙うチームはプロセスとしていろいろ試行錯誤したい面があるんだけど、そんなことをしていると、足元をすくわれかねないレベルのリーグになっているということなんでしょうね。
あと、トヨタに関してはアイイ(31=SOオレニ)が調子が悪いとチームが乗れないようなところがある気がします。

稲垣:選手個々の力は凄いし、若手もよく育っている。今年の新人で言えばPRの伊東(秀剛=24)がいいし、2年目の山内貴之(24=CTB)も成長している。
そういった若手が機能してくれば、後半戦もっともっと強くなる可能性は秘めていると思います。

(以下、中編へ続く)


安定感抜群のCTBコンビ、入江(右)と霜村主将。軸になる選手が揃って好調な点も三洋の快進撃の一因 photo by Kenji Demura (RJP)
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photo by Kenji Demura (RJP)










ワイルドナイツの新戦力WTB山田は5トライを挙げているアタック力だけではなく、DF面でもチームに貢献
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photo by Kenji Demura (RJP)










今季は主にNO8として起用される望月。勘のいいサポートからどんどん前に出て行くプレースタイルは「立ってつなぐ東芝」の象徴的存在
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photo by Kenji Demura (RJP)










前半戦ややつまずいた面もある東芝が例によって中盤チーム力を上げていくのか。いぶし銀のプレーぶりを見せるベテランFB松田にも注目だ
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photo by Kenji Demura (RJP)










ボールを動かして攻め続ける今季のサントリーの象徴的存在SOピシ。サンゴリアスのアタックは後半戦で爆発するのか?
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photo by Kenji Demura (RJP)










今季初戦でサントリーを破って勢いに乗るかと思われたトヨタだが、下位チームへの取りこぼしもありすでに2敗。後半戦で巻き返せるか?
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photo by Kenji Demura (RJP)


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