プレーオフトーナメントセミファイナル、ワイルドカード2回戦 TOPマッチプレビュー

今シーズンより開始した、特集「TOPマッチプレビュー・レポート」。
ワイルドカード、プレーオフトーナメントと、引き続き、スポーツライターの目から見る試合プレビューとマッチレポートをお送りいたします!!
佳境となった今シーズン。どこがトップリーグチャンピオンになるのか?
どこが日本選手権に出場するのか???
見どころ満載の試合をもっと面白く、楽しく観戦するために、必見です!

再戦は、前回の敗者に有利に働くのか?
プレーオフも、ワイルドカードも、"リベンジマッチ"に注目だ

いよいよトップリーグの最終決着を決めるプレーオフトーナメントが始まる。
22日は東芝ブレイブルーパス対サントリーサンゴリアス、23日は三洋電機ワイルドナイツ対トヨタ自動車ヴェルブリッツの顔合わせ。
今季は、秩父宮ラグビー場での両日開催(ともに14時キックオフ)となって、関東圏のファンはセミファイナル2試合を生観戦できる。テレビ桟敷でこたつ観戦というインドア派も、チャンネルをこまめに切り替えてどちらを見るか迷ったり、その間にトライを見逃したり……というリスクから解放される。まずはこの日程を存分に楽しもう!。
  レギュラーシーズン最終節ではブレクダウンを制した東芝が26-10でサントリーを退けた。今回も密集戦の優劣が勝敗を分けることになるのか
レギュラーシーズン最終節ではブレクダウンを制した東芝が26-10でサントリーを退けた。今回も密集戦の優劣が勝敗を分けることになるのか
(C)2011,JRFU(photo by Kenji Demura RJP)

さて、年末辺りから「そうなるんじゃないかな」と予想されていた通り、第13節の秩父宮ラグビー場とまったく同じカードとなった。わずか二週間弱のインターバルをおいての再戦である。しかも、昨季のセミファイナルとも同一カードと、因縁じみた組み合わせだ。
今季の大学ラグビーが、秋の関東大学対抗戦で早慶明3校に敗れた帝京大学のリベンジで終わったように、力の拮抗したチーム同士の再戦は、最初に勝ったチームに不利に働く場合が(経験的に)多い(ように感じられる=しっかりデータをとったわけではない)。

昨季のトップリーグでも、サントリーに22-59と大敗した東芝が、セミファイナルでも前半を7-21とリードされながら、後半2分に飛び出したLO望月雄太の50メートル独走トライで一気に流れを引き寄せ、35-24と逆転。そのまま頂点まで駆け上がった。今季は10日に東芝がサントリーを26-10と破ったが、果たしてこの勝敗がどう影響するか。
両チームの首脳は、「小さな分析をするより自分たちのラグビーをどう貫くか」(東芝・瀬川智広監督)、「今の時期は分析よりシンプルなことをやりきったチームが勝つ」(サントリー・エディー・ジョーンズ監督)と、ともに真っ向勝負を宣言する。しかし、手の内はお互いに百も承知。それだけに、昨季の望月の独走トライのようなビッグプレーが飛び出せば、両者のバランスが崩れて流れが大きく傾く。
ブレイクダウンの攻防がキーになるのは当然だが、そんな状況で誰にも予測できないことをやってのけるのは誰か? 意外なプレーヤーが勝利を呼び込むヒーローになりそうだ。

2週間前に激戦を制したトヨタは自信を深めてセミファイナルに臨み、主力が戻る三洋は返り討ちを狙う(写真はボールを奪い合うトヨタNO8菊谷と三洋WTB北川智) 2週間前に激戦を制したトヨタは自信を深めてセミファイナルに臨み、主力が戻る三洋は返り討ちを狙う(写真はボールを奪い合うトヨタNO8菊谷と三洋WTB北川智)
(C)2011,JRFU(photo by Kenji Demura RJP)

23日の三洋対トヨタ戦も昨季のセミファイナルと同じ顔合わせだが、今季はトヨタの変身ぶりが際立っている。
10日の三洋戦では、FWがわき上がるようなサポートでボールを動かし、三洋ディフェンスを突き破った。朽木泰博監督が目指す「人が動いてボールが動くラグビー」の理想型のような内容だった。トヨタは今季、プレーオフ出場チームに不敗を貫いた唯一のチーム。そんな勢いをさらなるレベルアップに結びつけて、理想型を貫き通せるかが勝敗のカギだ。
一方の三洋は、久しぶりにレギュラーシーズンで2敗したが、それが悲願の初優勝に弾みをつけるためのいい刺激となった可能性もある。昨シーズン無敗を貫いた緊張感が適度に抜けた今シーズンは、逆にプレーオフに向けて集中力を高めるチャンスかもしれない。

神戸対カーン・ヘスケスのリベンジマッチ?

ワイルドカードトーナメント1回戦でコカ・コーラウエストに際どく逆転勝ちした勢いで、レギュラーシーズンでは5点差で敗れたNECへのリベンジを果たしたいリコー ワイルドカードトーナメント1回戦でコカ・コーラウエストに際どく逆転勝ちした勢いで、レギュラーシーズンでは5点差で敗れたNECへのリベンジを果たしたいリコー
(C)2011,JRFU(photo by Kenji Demura RJP)

日本選手権出場をかけたワイルドカードトーナメントも、23日の近鉄花園ラグビー場で決着がつく。第1試合がNECグリーンロケッツ対リコーブラックラムズ(12時キックオフ)、第2試合が神戸製鋼コベルコスティーラーズ対福岡サニックスブルースの顔合わせだ。

第1試合は、最終節のサニックス戦で、久しぶりにいい形のトライを量産したNECがその勢いを持続できるかがカギ。キャプテンのニリ・ラトゥが出場停止となった影響にも注目だ。
第2試合は、大畑大介の負傷リタイアで落胆した神戸ファンも多いかもしれないが、この試合は神戸にとっては、前半を12-3とリードしながら、後半開始とともに現れたカーン・ヘスケスに一気に流れを持っていかれて19-27と涙を呑んだ第2節の"リベンジ"マッチ。しかも、神戸は12月にトヨタを除く3強と対戦し、全敗したもののいずれも接戦に持ち込んでいる。
サニックスにすれば、レギュラーシーズン以上にボールを動かして、神戸ディフェンスを攪乱したいところだ。

(text by 永田洋光)

レギュラーシーズンでの対戦ではサニックスが鮮やかな逆転勝ち。大畑のいない神戸製鋼はブルースの勢いを止められるか? レギュラーシーズンでの対戦ではサニックスが鮮やかな逆転勝ち。大畑のいない神戸製鋼はブルースの勢いを止められるか?
(C)2011,JRFU(photo by Kenji Demura RJP)

プレーオフトーナメントセミファイナル
注目のプレーヤー

松田努(東芝ブレイブルーパス)

  松田努選手
松田努選手

今はもう遠い昔のように思える、猛烈な残暑のなかでの開幕戦。
この試合で、トップリーグ最年長出場記録を更新し、最後のトライをお膳立てしたFB松田努について、瀬川智広監督は言った。
「これからも松田はどんどん記録を更新していきますよ」
その言葉を裏書きするように、松田は今季、元気に走り続けた。

第12節の福岡サニックスブルース戦では、後半23分にトライを奪って、神戸製鋼コベルコスティーラーズNO8伊藤剛臣が持つ最年長トライ記録を更新。
サントリーサンゴリアスを破ってレギュラーシーズン1位通過を決めた最終節10日にはスターティングメンバーに名を連ね、大きな拍手に迎えられて、久しぶりの背番号15で秩父宮のピッチに立った。
秩父宮での"大畑大介ファイナル"となった第10節の神戸製鋼戦で後半4分にピッチに立った際には、主役の大畑までが拍手で出迎えた。ウォーミングアップで出会った松田が、大畑に「オレが出るまで這ってでもグラウンドに立ってろよ」と通告したことが伏線だが、1対1のマッチアップこそなかったものの、最後の対戦を楽しんだ。
背番号22で途中出場し続けた間も、「ジョン!」「ジョンさ~ん」と観客が沸かせていた"最年長プレーヤー"の貫禄は、敵味方の枠を越えてラグビーファンを魅了するのだ。

もちろん、そんなエピソード以上に味わい深いのが、衰えるどころか一層の冴えを見せるプレーぶり。パスを放るタイミング、スペースを見逃さない嗅覚。それらは、凄みさえ感じさせて、プレーオフに相応しいハイレベルにある。
「ダイスケも負傷して、年々自分をレベルアップさせてくれるプレーヤーが少なくなるのが淋しい。でも、ビッグゲームの興奮は特別です。ゲームをやっていて、しびれるような感覚になる。今は、そういう試合を楽しみたい」
去就には頑として口をつぐむが、プレーを語れば言葉がなめらかにこぼれ出す。

最高のプレーが生まれる瞬間について尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「ボールを持った瞬間にとっさに身体が反応して動いたコースと、目で見た状況判断が一致したときですね」
もし、トップリーグのベストフィフティーンに、「スーパーサブ」部分があれば、最高得票数で堂々の1位に輝くことは間違いなし。
背番号が15だろうが、22だろうが、こんな味わい深いプレーヤーに注目しない手はない。プレーオフの面白さは、張り詰めた緊張感のなかで特別な選手が特別なことをやってのける瞬間に凝縮されるのだから。

松田努 松田努(まつだつとむ)
◎草加高校→関東学院大学→東芝ブレイブルーパス。FB。180cm、90kg。40歳。日本代表キャップ43
(C)2011,JRFU(photo by Kenji Demura RJP)


プレーオフトーナメントセミファイナル
注目のプレーヤー

三宅敬(三洋電機ワイルドナイツ)

  三宅選手
三宅選手

FBに両WTBを加えて「バックスリー」と呼ぶ。チームの防御ラインの背後で相手キックや、抜けてきた選手に対応するポジションの総称だ。
三洋はときにこれが、"バックフォー"となる。アウトサイドCTBに三宅敬が入ると、自然にそんな布陣になるのだ。
背番号で言えば、11番、13番、14番、15番がローテーションのように動いて、ピッチにできかけたエアポケットを未然に防ぐ。そんな連動性が、三洋のぶ厚い防御を支えている。

もちろん、前方に11人で壁を作って4人が背後に回るような単純な形ではないが、要はWTBやFBがタックルに入ってバックスリーが欠けたときに、するっと忍者のように三宅が背後に戻ってくる。
そして、ほとんどのピンチがピンチに見えずに終わってしまうのだ。
「相手のキックに対して、1人でも多く戻ってカバーする方が確実ですから」と三宅は言うが、その分、カウンターアタックに移ったときに連動性を保ちやすく、攻守の切り替えもスムースになる。

このシステムを強力に支えるのが、相手キックに対するフィールディング。
強風が吹いた最終節は若干乱れる場面もあったが、シーズンを通してキック処理が安定していたのが、三洋の強みだ。
飯島均監督は、「キック処理は練習の成果です」と胸を張るが、なかでも三宅の果敢なハイボールキャッチは正確かつ勇猛で、高校生のお手本にしたいほど。
「三宅はアベレージが高い選手。期待値を絶対に下回ることがない」が、飯島監督の三宅評だ。
三宅のポジションは本来WTB。
しかし、WTBでピッチに立っても、FBやCTBで試合に出ても、危ないところに目を配る危機管理をサボることはない。

アタックに転じれば、相手防御のギャップを見逃さず、隙あらばラインブレイクして、北川智規、山田章仁の快足フィニッシャーにボールを託す。
「もともと僕は、WTBのときからWTBらしくないと言われてました(笑)。CTBは、WTBよりも献身的な動きが求められますが、僕は個人的にはトライを取ってもらうプレーが好き。全然気になりません」
チームは今季、第10節でサントリーサンゴリアスに、最終節でトヨタ自動車ヴェルブリッツに敗れた。飯島均監督は、「最終節で敗れた相手とまた対戦できて、勝ちたい気持ちが強まった」と話すが、そういうときに役立つのが、三宅のように攻守で自在なポジションをとって、仲間を鼓舞し続けるプレーヤー。
神出鬼没のCTBは、悲願のトップリーグ制覇を狙うチームの精神的な支柱でもある。

三宅敬 三宅敬(みやけ・たかし)
◎伏見工業高校→関東学院大学→三洋電機ワイルドナイツ。CTB/WTB/FB。175cm、82kg。30歳。日本代表キャップ4
(C)2011,JRFU(photo by Kenji Demura RJP)

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