TOPマッチレポート「シーズン総括座談会」【前編】

前編 / 中編後編
トップリーグ2010~2011シーズン総括特別企画
TOPマッチレポート特別編"TOPスペシャリスト座談会"
永田が、村上が、稲垣が、熱き戦いを振り返る!【前編】


■出席者(五十音順) 稲垣 純一 (トップリーグ部門長)
永田 洋光 (ラグビーライター)
村上 晃一 (ラグビージャーナリスト)
■進行/構成 出村 謙知 (フォトレポーター)

三洋電機ワイルドナイツの悲願の初優勝で幕を閉じたトップリーグ2010~2011。熱戦の多かった今季の各チームの戦いぶりを専門家たちが語り尽くす特別企画が実現。TOPマッチレポートでもおなじみのスペシャリストたちは、どんなふうにシーズンを総括しているのか。
熱い意見が交錯した「シーズン総括座談会」の模様を、前編、中編、後編の計3回に渡って紹介する。
前編では、プレーオフファイナルに続いて日本選手権決勝でも死闘を繰り広げることになった、リーグ覇者の三洋電機と準優勝のサントリーの戦いぶりを振り返ってもらった。


主力の成熟度が頂点に達していたワイルドナイツ

 
トップリーグ初制覇を成し遂げ、FB田邉と抱き合って喜ぶSOブラウン。主力がいいコンディションでプレーオフに臨めたのも三洋には大きかった
トップリーグ初制覇を成し遂げ、FB田邉と抱き合って喜ぶSOブラウン。主力がいいコンディションでプレーオフに臨めたのも三洋には大きかった
photo by Kenji Demura (RJP)










攻守に圧倒的な存在感を見せたNO8ホラニ。今季の三洋の中心選手たちの成熟度はチャンピオンチームに相応しいものだった
攻守に圧倒的な存在感を見せたNO8ホラニ。今季の三洋の中心選手たちの成熟度はチャンピオンチームに相応しいものだった
photo by Kenji Demura (RJP)













リーグ戦MVPに輝いたのはHO堀江(写真)だったが、今季のワイルドナイツはMVP選考者を悩ませるほど一人ひとりのレベルが高かった
リーグ戦MVPに輝いたのはHO堀江(写真)だったが、今季のワイルドナイツはMVP選考者を悩ませるほど一人ひとりのレベルが高かった
photo by Kenji Demura (RJP)













セミファイナル、ファイナルそれぞれ1トライずつを挙げ、プレーオフMVPに輝いた三洋WTB山田。若手の成長も三洋を頂点に導く要因となった
セミファイナル、ファイナルそれぞれ1トライずつを挙げ、プレーオフMVPに輝いた三洋WTB山田。若手の成長も三洋を頂点に導く要因となった
photo by Kenji Demura (RJP)













プレーオフファイナルでは"魔の20分間"に三洋に逆転を許したサントリーだったが、日本選手権では見事にリベンジ。SHグレーガン(手前右)も有終の美を飾った
プレーオフファイナルでは"魔の20分間"に三洋に逆転を許したサントリーだったが、日本選手権では見事にリベンジ。SHグレーガン(手前右)も有終の美を飾った
photo by Kenji Demura (RJP)













日本選手権決勝ではブレイクダウンの支配率を上げ、ラックサイドをスピードでタテに突き抜けて三洋DFを破ったサントリー(写真はFB有賀)
日本選手権決勝ではブレイクダウンの支配率を上げ、ラックサイドをスピードでタテに突き抜けて三洋DFを破ったサントリー(写真はFB有賀)
photo by Kenji Demura (RJP)



──プレーオフファイナルでサントリーを破った三洋電機が悲願のトップリーグ制覇を果たしたわけですが、この結果に関してはどう受け止めていますか?

永田:三洋はレギュラーシーズンで全勝じゃなかったのが逆に良かったんじゃないですかね。若手をうまくリーグ戦で使って、その若手が伸びていいパフォーマンスをしていたし、あのチームって昔から張り詰めた緊張感が長く続かないというところがあるので、そういう意味では少しずつ、緩めながら、緩めながら、戦えたのが、いい結果につながったんじゃないかなと思います。

──確かに、途中、主力に故障者が相次いで、若手が経験を積むことができたし、その一方でプレーオフでは主力がいいコンディションで臨めたのも大きかったですね。

永田:元々、ひとりひとりのレベルが高いから、リーグ戦の途中でサントリーに負けたり、トヨタに負けたりしても落ち込む必要が全然ないというのが選手の中に定着している。負けた時に、チームの中でどこがマズかったのかという修正ができるし、その辺が大人のチームになったなという感じを受けました。
昔だったら、山田(章仁=WTB)とか、使えなかったんじゃないかな。

村上:これまでは、霜村(誠一主将=CTB)とかブラウン(トニー=SO)とか、本当に軸になっている選手が終盤にケガで体調不良になったりしていたのが、今回は早めにそれが起こって、プレーオフでは逆に万全に臨めたという、三洋にはそういういい流れもありましたよね。ピークをうまく最後に持っていけた。
三洋の主力選手の成熟度がかなりピークにきていることも間違いないし、3年連続でプレーオフのファイナルで負けていて、勝ちたい意欲もこれ以上はないというくらいに高まっていた。いろいろな面で、今年、三洋はピークにきていたのかな、と。
そういう意味では、今年の三洋の優勝は必然的なものだったのかなという気がします。

稲垣:これは裏話でもあるんですけど、今季のトップリーグMVP選考で、一番意見が割れたのが、「三洋が優勝した場合、誰にするか」でした。選び方としては、プレーオフに勝ち残った4強に関して、それぞれ「ここが優勝したら、この選手」というかたちで候補者を決めていくんですが、例えば、サントリーだったらライアン(ニコラス=CTB)か小野澤(宏時=WTB)、東芝だったらベイツ(スティーブン=FL)か均ちゃん(大野=LO)、トヨタならアイイ(オレニ=SO)か中山(義孝主将=FL)とか、他の3チームはある程度意見が一致したのに、三洋に関しては本当に多くの意見があった。
ちょっと前だったら、絶対トニー・ブラウンだったのに、いまはどのポジションの選手もMVPに相応しい働きをしていると言っていいほど、チームとしてのバランスも抜群に良くなっている。
結果的に、13試合通しての活躍という意味では一番安定していたということで、堀江(翔太=HO)になったんですが、ヒーナン(ダニエル=HO)であるとか、劉永男(LO)であるとか、ホラニ(龍コリニアシ=NO8)であるとか、当然、霜村もそうだし、山田も凄い活躍をしたし、MVPに関してみんなが迷っちゃうくらいに全員が凄い働きをした。

村上:三洋はヒーナンのようにサイズもパワーもある凄い選手もいるけど、三宅(敬=WTB/CTB)みたいに、小さくて、そんなに足も速くないけど、すごく良く働くWTBもいて、そういう選手の個性の幅みたいのもありますよね。三宅みたいな選手の存在が山田をはじめとする若手の成長を促した面もあるんじゃないでしょうか。ああいうふうにしないと試合に出られないんだなという、もの凄くいい見本になる。三宅を越えるためには、DFしないとダメなんだなとか。

三洋はフェアプレー面でもリーグを率先する存在に

──実際、山田はプレーオフMVPに選ばれるなど、期待以上の成長ぶりを見せました。早くも、大畑(大介=神戸製鋼WTB)に代わるスター誕生との声もありますが……。

稲垣:華がありますよね。

永田:確かに、三宅のようないいお手本もいるし、タックルしなくちゃいけないという意識が芽生えてきたのも、本人的にも大きいと思います。実際、いいDFするようになったし。プレーオフではMVPに相応しい働きを見せた。

稲垣:三洋というチームに行って、大器が花開くチャンスが出てきたんだと思います。いままでは、確かに凄い面も持っているけど、例えば欠けたものがあっても誰もそれを指摘しないというような部分があったんだと思うんですけど、三洋ではそれでは通用しない。
それは、彼としても最初からわかっていたことだとは思うんですけど、その中でレギュラーをとったということが成長した証だし、逆に三洋というチームにとっても、彼が成長したことで、三宅、吉田(尚史=WTB/FB)なんかが控えに回って、いろんな状況に対応することができるようになったのは大きかったんだと思います。
でも、本当に成長しましたよ。タックルの面もそうだし、あとアタックに関しても、昔は1度アタックしたら、10回くらい休んでいる感じがあったけど、いまは常にどこにでも顔を出すようになった。

永田:三洋のバックスリーは、あまりポジションにこだわらず、お互いに左右を入れ替わりながら後ろのスペースを守るように動く。そういうシステムのなかでプレーできたことも、本人にはプラスになったかもしれない。

稲垣:もうひとつ三洋に関して強調しておきたいのは、フェアプレー賞もとっているという点ですよね。優勝したチームがフェアプレー賞もとるという意味では、非常に理想的な存在であるし、これはラグビー界全体に広めていきたい傾向ですね。いかにフェアプレーが大事なのかというお手本になる。そういうチームが頂点に立ったという面に関しては、我々トップリーグ運営側としては素直に喜びたいと思っています。
これで、ファンサービズ賞までとれば、まさに夢の三冠達成で、超理想的なんだけど(笑)。

村上:反則が少ないってことは、もちろんフェアにプレーするってことと同時に、反則しない見極めがうまいということだし、三洋の選手の判断力やスキルの高さの証明でもありますよね。

永田:第12節のリコーブラックラムズ戦では、LOの"ジャンボ"北川(勇次)が、試合中に他の選手から「そこに立つな」とか「もっとこっちに寄れ」とか細かく指示されていた。記者席から見ていても、その指示がものすごく的確。試合後には飯島均監督が「あいつ、たぶん頭の方が疲れているんじゃないか」と言っていましたが、そこまでチームの意識が高くてシステムが出来上がっているから、反則をしなくて済む。そんな印象を受けました。

今季、最も成長を感じさせたサントリー

──今季の三洋に関しては、選手一人ひとりの経験値、そしてチームの成熟度という意味では、歴代の日本のチームの中でも、かなり高いレベルにあったのは間違いないと思うのですが、それでもファイナルのスコアは5点差で、試合を支配していた時間帯では圧倒的にサントリーの方が長かった。
日本選手権決勝での再戦では、三洋電機を攻め切って9年ぶりのタイトルもものにしたサントリーに関しては、どんなふうに評価していますか?

永田:正直、よく1シーズンであそこまで持っていったなと。
8月に東芝とのプレシーズンマッチを見た段階では、エディーさん(=ジョーンズ監督)も「ロングジャーニー」と言っていたけど、本当に2シーズンくらいかかるんじゃないかと思っていたんですが、終盤チームが勝ちながらまとまっていった。トライもしっかりとって勝つんで迷いがない。
ただ、まだ臨機応変という点に関しては物足りないというか、そこまでは間に合わなかったのかなと。それが、ファイナルでの正直な印象でした。

村上:すごくシンプルだと思うんですよね。ラグビーとしては。ボール動かして、だいたいCTBのところでクラッシュして、その後FLがすぐ寄ってきて、そのボールを連続して出していくみたいな。
 非常に見ててわかりやすい。相手からみてもわかりやすいけど、そのすべての局面で勝っていくというラグビー。進化の方向としは、フィットネス高めて、寄りを早くして、判断を磨いていくという、見ていてチームの成長がわかりやすいので、面白いですよね。
たとえば、レギュラーシーズンの最終節で東芝に負けて、でも2週間後のプレーオフセミファイナルでの再戦では、課題だったブレイクダウンで上回って勝つあたりが、一戦一戦ちゃんと伸びてることを実感させてくれた。

──プレーオフファイナルでは最終スコアも5点差でしたし、前半、サントリーに支配されていた時間帯には、三洋の選手たちの間で「パニックになるな。パニックになるな」という声が飛び交っていました。リーグMVPの堀江なんかは「僕自身は完全にパニックになってました」と語っていたくらい、サントリーのアタックで重圧は感じていたんだと思います。そういう意味では、僕自身はファイナル時点で三洋とサントリーとの差は意外と紙一重だったかな、という感じはしてました。

稲垣:サントリーが60分間は試合を支配していましたからね。それでも、20分しか支配しないで試合をひっくり返してしまうあたり、ファイナルの時点では三洋に一日の長があったと言っていいでしょう。成熟度がピークである三洋に対して、サントリーはまだ成長過程であるのが明らかになったのが、あのファイナルだったかな、と。

村上:プレーオフファイナルの時は持ち込んだボールを三洋に取られて、きれいにトライされたりしましたけど、あそこで取られないで、逆にうまくブレイクダウンできて、サントリーがトライ取れてたりすれば違う展開・結果になった可能性も十分あったと思う。

稲垣:まさに、あれはトニー・ブラウンだからできたプレー。あのあたりにも三洋の強さは表れている。とはいえ、畠山(健介=サントリーPR)がボールを片手で持っていたのは……(苦笑)。

村上:やはり、「ボールは両手で持とう」と(笑)。

稲垣:その、トニー・ブラウンが畠山からボールを奪った場面なんかに顕著だったんですけど、凄いのは、サントリーがいいリズムで攻めていたのに、いきなりボールを奪った三洋がちゃんとアタックラインが敷けているというところ。

村上:三洋はDFで全然寄らないですもんね。みんなDFでタックルの幅が広くて、ただ後ろに下がっていくだけ。ボールを奪った時にも、幅広く下がっていたのが、今度は前に行くだけなので、スムーズにカウンターに移行しやすい。

──特に、ブラウン、霜村主将が復帰した後は、ふたりが受け持つDFゾーンが本当に広くなる感じがあって、三洋の守りは本当に深みが増した感じがしました。
 でも、プレーオフファイナルではやや軽率なプレーをしてしまった畠山も、日本選手権では同じような場面ではしっかり両手でボールを持って突破を果たし、味方のトライにつなげたり、4週間で課題をきっちり修正したサントリーの適応力も素晴らしかった。

村上:春からの目標通りに強くなって、最後に結果を残す。こんなチームというか、強化にはなかなかお目にかかれないと思います。三洋電機の鉄壁ディフェンスは、ディフェンダー一人一人の守る範囲が広く、タックルも堅実なので、なかなか崩れない。ただ横に振り回しているだけでは攻めている側が疲れてしまう。サントリーは、SH日和佐の横にブラインドサイドのWTBやFBを走り込ませたり、SOピシが勝負することで、密集周辺を早い段階で攻略しました。これは見事でした。あの位置で抜かれると、三洋の幅広いディフェンスモさすがに中央に集まります。スクラムも安定していたし、この決勝はサントリーの快勝だった。力の拮抗したチーム同士が短い期間に二度戦って両方勝つのは難しいということでもあり、そこまで力を近づけたサントリーが立派だったと言えると思います。

稲垣:エディー・ジョーンズ(サントリー監督)という人は、ひとつの理想を掲げると徹底的にそれを突き詰めていく。今季に関しては、彼が8月、9月に思っていた以上に選手たちが早いスピードで消化してきているんじゃないかという気がします。
日本選手権決勝では、「みんな、よく頑張った」のひと言でした。

永田:逆に、三洋は99年W杯準決勝でニュージーランドを破りながら決勝戦でオーストラリアに敗れたフランスとイメージが重なって見えました。
 試合前から、準決勝であんなに凄い試合をして気が抜けないか心配していたんですが、気持ちが抜けていたとは思わないし素晴らしいトライも奪ったけれども、やはり準決勝の出来には及ばなかった。

村上:先ほど、三洋が成熟期で、サントリーが成長期みたいな話が出ましたが、トップリーグの新人賞は06年が北川智規(=三洋WTB)で、07年が田中(史朗=三洋SH)という三洋勢が続いた後、08年からはサントリー勢が3年連続受賞中なんですね(08年=PR畠山、09年=LO眞壁伸弥、10年=SH日和佐篤)。
 そんな点からも、北川、田中世代が順調に伸びている三洋がいま成熟期を迎えていて、サントリーはこれからどんどん強くなっていく可能性を秘めているということが言えるかもしれません。

(以下、中編へ続く)


RELATED NEWS