TOPマッチレポート「シーズン中盤戦までを振り返る」【中編】

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TOPマッチレポート特別企画
TOPスペシャリスト座談会「レギュラーシーズン中盤戦までの熱い戦いを振り返る」【中編】


■出席者(五十音順) 稲垣 純一 ((財)日本ラグビーフットボール協会事業委員長)
永田 洋光 (ラグビーライター)
村上 晃一 (ラグビージャーナリスト)
南 隆雄 ((財)日本ラグビーフットボール協会トップリーグ部門長)
■進行/構成 出村 謙知 (フォトレポーター)

1月15日までに第10節が終了したトップリーグ。
泣いても笑っても残り3節。果たして、ベスト4に勝ち残るのは? 日本選手権出場の可能性を残すチームは?
TOPプレビュー/マッチレポートでもお馴染みのTOPスペシャリストたちが中盤戦までの戦いを熱くかつ冷静に振り返る特別企画が今季も実現。
中編では、熾烈な4位争い、そしてワイルドカードトーナメント出場権(レギュラーシーズン5~8位)をめぐる戦いを続ける4~10位(第10節現在)のチームの動向に関して語ってもらった。

不振が続くトヨタ自動車。終盤戦で立て直してワイルドカードトーナメントから日本選手権での巻き返しを狙う
不振が続くトヨタ自動車。終盤戦で立て直してワイルドカードトーナメントから日本選手権での巻き返しを狙う
photo by Kenji Demura (RJP)

──さて、昨季のベスト4ながら、ふがいない成績となってしまっているトヨタ自動車ヴェルブリッツ(第10節現在で10位)ですが……。

稲垣 選手はいますよね。代表も多いし(苦笑)。

村上 アイイ(オレニ=SO)が調子悪かったり、ブレッド(スティーブン=SO/CTB)がケガしたり、シーズン前は文字(隆也)をSOとして考えていたのに、やはり開幕前にケガしちゃったりと、いろんなアンラッキーな要素が重なっちゃった面はありますよね。

 でも、実は考えて動くようになって、おかしくなっちゃったんじゃないかと(笑)。東芝ブレイブルーパス的なガツガツしたトヨタ自動車の強さが失われてしまったのが成績が上がらない一番の要因のような気がします。

南  "今、考動"のスローガンを意識しすぎているのかなぁ(苦笑)。激しさを前面に出して、頭の中は冷静に……ぐらいの感じで試合に臨めればいいと思うのですが。

稲垣 第10節終了時点で10位で、しかも11位のサニックスとの勝ち点差も5しかなくて、入替戦に回る危険性さえ少なくない。

──年末最後のサントリー戦や第10節のパナソニック戦では、ようやく「おれたちはシンプルにいくしかない」みたいに吹っ切れた感があって、敗れはしましたけどガツガツいくトヨタ自動車が見られて良くなっている印象を受けたんですが、いずれにしても遅きに失した感は否めないですね。

南  ワイルドカードトーナメント(レギュラーシーズン5~8位のチームが出場)さえ、厳しい状況ですけど、リコーブラックラムズ(第10節現在7位)やヤマハ発動機ジュビロ(同8位)との直接対決を残しているので、日本選手権に目標を絞って立て直してほしいところです。

プレーオフ進出のため1試合も落とせない戦いが続く神戸製鋼。FL橋本(写真)など若手の成長も
プレーオフ進出のため1試合も落とせない戦いが続く神戸製鋼。FL橋本(写真)など若手の成長も
photo by Kenji Demura (RJP)

──昨季5位の神戸製鋼コベルコスティーラーズ(第10節現在で5位)も序盤戦は苦しみました。

稲垣 NTTドコモレッドハリケーンズに負けた試合(第6節、29-32で敗戦)を見たんですが、前半、普通にリードしていたのに、後半におかしくなっちゃったんですよね。その前の近鉄ライナーズ戦(第2節、14-21で敗戦)もそうでしたけど。このところ良くなってきているということは、試合の中で波があった部分が修正されてきているのかな。

永田 開幕戦を見た印象では、神戸製鋼はムチャクチャ強いなと思ったんですけどね(対NECグリーンロケッツ、38-17で勝利)。NECのFWにモールとかで挑まれても全然ビクともしないで、余裕で受け止めていた感じでした。

南  神戸製鋼は悪天候で調子を崩した面もありましたよね。2節、3節と雨で、それでも自分たちの"ムービングラグビー"を貫き通そうとして失敗した。もう少し天候に合わせたゲームプランも考えておけば、こういう成績にはならなかったんじゃないですかね。

稲垣 NTTコミュニケーションズシャイニングアークス戦(第4節、10-19で敗戦)がまさにそうでしたね。秩父宮が凄い雨で、同じ日にヤマハ発動機と試合をしたサントリーサンゴリアスでさえキッキングゲームに変えたのに、神戸製鋼はどんどん攻めてね。NTTコミュニケーションズに守り切られた。

──第6節でNTTドコモにも負けて、少しメンバーもいじったりしたんですよね。それが、トヨタ自動車戦、東芝戦でのいい流れにつながった面もある。谷口(到=LO)をインパクトプレーヤーとして使うためにリザーブに回して、清水(佑=LO)を先発に使ったり、松原(裕司=HO)の調子が良くなかったので、新人の木津(武士=HO)に変えたり、山下(裕史=PR)の復帰も大きい。山下がいない時は、平島(久照主将=PR)が3番をやったりしていましたし。チームの新陳代謝がうまくいき始めているのかなという気もします。

村上 グラント(ピーター=SO)、カワウ(ジェーソン=CTB)、アンダーソン(フレイザー=CTB)と並んだら、強力ですよね。

──年末に東芝に勝った試合でも、カワウ、アンダーソンのCTBコンビは効いてました。FW戦で東芝に勝っているところに、あの2人がさらにどんどん前に出て、手がつけられない感じでした。

稲垣 終盤戦は上位陣との直接対決もあるし、最後までリーグを盛り上げてくれる面白い存在になりそうな気がします。

 
新顔だけでなくLO浅野(写真)などベテラン勢の頑張りもNECの快進撃を支えている
新顔だけでなくLO浅野(写真)などベテラン勢の頑張りもNECの快進撃を支えている
photo by Kenji Demura (RJP)

──神戸製鋼同様、東芝を破って、中盤戦では勢いに乗った感のあるNEC(第10節現在で4位)ですが、具体的にはどこが良くなったのでしょうか。

永田 SHとWTBが変わるだけで、こんなにチームって変わるんだなというのが率直な感想です。

──ナドロ(ネマニ=WTB)の存在は大きいですよね。副将の櫻谷(勉=CTB)が言ってたんですが、とりあえずナドロのところで必ず前に出てくれたり、ボールキープしてくれたりするので、すごく楽だと。FWからのBKへの信頼度も全然違ってきて、いい循環になってますよね。

永田 去年だったら、たぶん櫻井(朋広=SH)がテンポよく捌いてもチームにフィットしなかったんじゃないかな。でも、今シーズンは田村(優=SO/CTB)というラインを動かせる選手が入って、さらにナドロという規格外のWTBがいるから、櫻井の球捌きがもの凄く生きている。

 FWでも新人の存在は大きくて、村田(毅=LO)が効いている。ああいうボールを持って前に走ってくれる選手が入ったことで、例えば土佐(誠=NO8)が「今年の自分のテーマはブレイクダウンとタックル」と言っていたり、それぞれが自分の仕事に集中できているのが、チームとしてもいい循環になっているのかなとは思います。

村上 NECは非常にわかりやすいですよね。得点力不足にずっと泣いていて、昨季はなかなか敵陣に行けなかったところに、新たにキック力のあるSOとインサイドCTBが来て、決定力のあるWTBが入ってきた。課題を克服する人材がうまくハマって、噛み合っての上位進出と。

稲垣 田中(光=PR)、村田、細田(佳也=FL)、田村という4人の新人、2年目の選手も瀧澤(直=PR)、川村(慎=HO)、櫻井といて、土佐も実質2年目。うまく世代交代できた感じがありますよね。

永田 今シーズンは浅野(良太=LO)、大東(功一=FB)というベテランも頑張っています。弱点はセットプレーかな。NTTコミュニケーションズ戦(第8節、31-18で勝利)でも、190cm以上の選手が細田しかいなくて、ロス(アイザック=LO)に随分取られていたし、スクラムでも猪瀬(=PR)が押されていた。ホント、ラインアウトでもスクラムでもやられて、よく勝ったなという内容でした(苦笑)。

──4位争いという点に目を向けると、第10節現在4位のNECが勝ち点が36で、同5位の神戸製鋼が34。さらに、同6位の近鉄が29、同7位のリコーが28、同8位のヤマハ発動機ジュビロが27と。かなり熾烈な争いが展開されています。

村上 近鉄は、昨季まではSOからの普通のキックをみんなでチェイスしてというのがエリアを取る時のパターンだったのが、今季は重光(泰昌)をSOに固定して、CTBに大西(将太郎)、イエロメ(ジェフリー)、FBに高(忠伸主将)と、4人で蹴っていけるので、地域取るのでもいろんなバリエーションできて、余裕あるゲームメイクができるようになったというようなことを重光自身が言っていました。

 あと、前田(隆介)監督になって、本当に監督が何を言わんとしているのかわかるようになったという面もあるのかもしれません。スローンさん(ピーター=前ヘッドコーチ)の時は、いくら通訳が入ってもどうもニュアンスが通じにくいところがあったんじゃないでしょうか。
 前田監督自身も凄く張り切っているみたいで、ちゃんと選手ひとりひとりに方向付けをしながら指導している。なので、みんな役割分担がはっきりして、チームに一体感もある。

永田 スローンさんの時に、ガッチリ基礎が固められて、今季コミュニケーションが良くなったところで、チームがまとまったのかなっていう。そういう印象です。

スマートな戦いができるようになった近鉄を支える指令塔SO重光
スマートな戦いができるようになった近鉄を支える指令塔SO重光
photo by Kenji Demura (RJP)

──近鉄で昨シーズンより間違いなく良くなっているのがディシプリンの部分。ここにきて、イエローカードや出場停止が続いて、反則ポイント自体は増えてきてしまってますが、反則数自体はリーグで2番目の少なさ。昨季はリーグ3番目の多さでした。

村上 ブレイクダウンの入りかたとかは、もの凄く細かく教えられているみたいです。

稲垣 確かに、昨シーズンまで「いったれ~」という感じでイケイケだったのが、スマートになった印象はありますね。

──今季は自陣からでもワイドに攻めていくという点も徹底されていて、しかも先ほど話もあったように、どこからでも蹴っていけるという自信もあるので、自陣からボールを動かしていっても不安定さを感じないんですよね。

村上 ランナーがいっぱいいますしね。

南  ホント、みんな足が速い。

ノヌーだけじゃない。激しいプレーを続けるNO8ハスケル(写真)の存在もリコーにとっては大きい
ノヌーだけじゃない。激しいプレーを続けるNO8ハスケル(写真)の存在もリコーにとっては大きい
photo by Kenji Demura (RJP)

 
清宮監督1年目の今季は得点力が格段にアップしたヤマハ発動機(写真はNO8トゥイアリイ)
清宮監督1年目の今季は得点力が格段にアップしたヤマハ発動機(写真はNO8トゥイアリイ)
photo by Kenji Demura (RJP)

── 一方、超ビッグネームが加入して、一気に人気チームになった感もあるリコーですが。

稲垣 すごくチームが締まった感じがします。もちろん、大物が加入した影響も大きいのでしょう。

永田 河野(好光=SO)とエリソン(タマティ=CTB/FB)が、ノヌー(マア=CTB)が入った影響で自由に動けるようになって、非常に良くなっている。FWでもハスケル(ジェームス=NO8)がいるプラスアルファをみんなしっかり受け取っている気がしますね。キャプテンの滝澤(佳之=HO)も頑張っている。

──中盤戦になって、チームとしてノヌーをどう使うかというか、回りの選手がノヌーにどう使われるかが整理されてきて、すごく効率的にトライが取れるようになってきている印象を受けました。ノヌーが来日初トライを記録した近鉄戦でも、どうしても近鉄のディフェンスがノヌーに引きつけられるので、それをうまく利用して、河野がラインブレイクしまくっていたし、ノヌーからの外側の選手への飛ばしパスでもトライを取っていました。

南  リコーは崩れなくなりましたよね。近鉄戦は僕も見たんですが、後半、先に近鉄が取った時、リコーが崩れるんじゃないかと思ったんですけど、逆にリコーの反撃に火をつけるかっこうになった。

稲垣 リコーも決定力のある選手が多いですよね。高速ランナーがいっぱいいる。

南  ノヌーとキニキニラウ(ロイ=WTB)がいると、ラインの幅が全然違うものになる。2人で3人分くらい取る感じですからね。相手にとってはたまらないでしょう。

──選手もそうですが、監督に大物がやってきたことが一番の話題と言っていいかもしれないヤマハ発動機は、このところ接戦をものにしきれない試合が続いて、順位を8位にまで下げました。

稲垣 非常に清宮(克幸)監督らしいチームだなという気がします。取る時は凄く点数を取ったりするけど、負ける時はアッサリ負ける。(第10節現在)総得点が300点を超えているのも、総得失点差が100点以上あるのも、3強以外ではヤマハだけ。

──これも、清宮監督のチームらしいと言えるかもしれませんが、セットプレーが安定したのは大きいのではないでしょうか。

稲垣 確かに、長谷川慎コーチが指導しているスクラムは良くなりましたよね。ただ、ラインアウトはもうひとつかな。

──ラインアウトからモールでトライを取ったのは、第6節のコカ・コーラウエスト戦が初と言ってましたから、FWプレーでも強化の成果が出ている部分と、まだ成長過程の部分があるのかもしれないですね。

南  まあ、でも良くやってますよね。昨季はいろんなことがあって、何とか試合がギリギリできているというような状態だったわけですから。

稲垣 昨シーズンの苦しいところを乗り越えて、選手たちが逞しくなったのは間違いないでしょう。九州電力との入替戦では、本当に地獄の一歩手前と言っていい状況に追い込まれていたわけですから。さすがの清宮監督も「トップウエストからのスタートになるのかって思いましたよ」って、青ざめてましたからね(笑)。

──確かに、昨シーズン入替戦で辛うじて残留を果たしたチームが1年経たないうちに、上位チームとも競った試合を続けているのは、単純に考えると凄いことですよね。トライ王争いをするまでに成長した徐(吉嶺=WTB)などに話を聞いても、1年前とはセットでもブレイクダウンでもFWの逞しさが全然違うので、BKもその分取り切らないといけないという責任感もあるし、チームとしていい流れになっているみたいな受け止め方でした。

稲垣 マレ・サウ(CTB)、トゥイアリイ(モセ=NO8)、そしてコリンズ(ジェリー=FL)もフィットしてきたし、あとは、デーリック・トーマス(LO)かな。愛世(フォラウ=FL)もいますしね。インパクトプレーヤーは多い。

──勝負どころのパナソニックワイルドナイツ戦(第9節、19-25で敗戦)、NEC戦(第10節、19-23で敗戦)と、マレ・サウがいなかったのは痛かったですね。あと、大田尾(竜彦=SO)とか五郎丸(歩=FB)とか、キープレーヤーがケガしたらどうなんだろうみたいな、どうしても層が薄い不安感はありますよね。

稲垣 LOもいないのかな。ラインアウトが取れないということは。でも、終盤戦まだまだ台風の目になる存在ではありますよね。

NTTコミュニケーションズにとってはアジア枠として出場できるSOウイング(写真)の存在も大きい
NTTコミュニケーションズにとってはアジア枠として出場できるSOウイング(写真)の存在も大きい
photo by Kenji Demura (RJP)

──インパクトある外国人選手という意味では、NTTコミュニケーションズ(第10節現在で9位)も、中々凄いですよね。

永田 とにかく、アイザック・ロス(LO)が効いている。

稲垣 ブラッド・ソーンやダニー・ロッソウ(サントリーLO)よりも、ロスの方が日本のラグビーにはフィットしている感じがします。

──あと、クレイグ・ウイング(SO)、ジェイピー・ネル(CTB)と、BKにもいい外国人選手がいます。

稲垣 帰化枠やアジア枠もうまく使っていますよね。FLのダレン・マーフィーなんて、いつの間にマーフィー ダレンになったのという感じですもんね。アストン鷹クロフォード(FL)もインパクトがあるし。

──豪州ラグビーリーグ出身のウイングはフィリピン代表でアジア枠ですから(笑)。

永田 その一方で、FLの小林(訓也=FL)とか、PRの山口(泰生=PR)とか、日本人の選手もいい。

稲垣 NTTコミュニケーションズに行ってベテランが息を吹き返している感じがありますよね。他にも、大悟(山下=CTB)に栗原(徹=FB)、木曽(一=LO)や石神(勝=LO/FL)もいる。そういう他のチームから移籍してきたベテラン選手たちが、トップリーグの規律をしっかり教え込んでいる感じがします。

稲垣 トップリーグ2年目としてはチームの成熟度が素晴らしい。2年連続してトヨタ自動車に勝って、今季は神戸製鋼にも勝った。林雅人ヘッドコーチが入って、戦略がはっきりしてきたのかな。

永田 セットもブレイクダウンも強い。キャプテンの友井川(拓=WTB)とバイスの栗原が後ろ側からチームをしっかりまとめられている感じがします。

(以下、後編に続く)


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