TOPマッチレポート特別編「トップチャンレンジ1 第3節」レビュー

"39点差"を引っくり返した九電、3季ぶりトップリーグ返り咲きを決める

九電、奇跡の自動昇格を勝ち取る──。11日、トップチャレンジ1第3節の2試合が行われ、前節終了時点ですでに昇格を決めていたキヤノンイーグルスを68-17の大差で破った九州電力キューデンヴォルテクスが3季ぶりとなるトップリーグ昇格を決めた。
キヤノン-九州電力戦に先立って行われた豊田自動織機シャトルズークボタスピアーズ戦は58-27でクボタが勝利。この時点では、九州電力との得失点差で39点リードし、ほぼ自動昇格権を手中に収めたかに思われたクボタにとっては、なんともやりきれない結末に。
そのクボタは3月3日の入替戦でNTTドコモレッドハリケーンズ(トップリーグ11位)と、豊田自動織機は福岡サニックスブルース(トップリーグ12位)と、それぞれ対戦する。

■豊田自動織機シャトルズ 24-58 クボタスピアーズ (前半7-26)──2月11日
■キヤノンイーグルス 17-68 九州電力キューデンヴォルテクス (前半17-35)──2月11日


 
後半、投入されたCTBトゥプアイレイも流れを変えられなかったキヤノン。大敗を糧に日本選手権での立て直しをはかる
photo by Kenji Demura (RJP)

 第2節終了時点で九州電力キューデンヴォルテクスと勝ち点4で並んでいたクボタスピアーズが第1試合で豊田自動織機に58-24で快勝。
 この結果、九州電力が自動昇格を果たすためには、ここまで2戦2勝のキヤノンイーグルスから4トライ以上を奪い、なおかつ39点差以上をつけて勝たなければいけない状況に追い込まれていた。
 恐らく、この日、東京・秩父宮ラグビー場を埋めた5000人近くの観客のうち、第1試合が終わった後、第2試合が始まる前に九州電力のトップリーグ自動昇格を予想できていた人はそう多くはいなかったはずだ。
 実際、当の九州電力の選手たちでさえ、試合前は「(第1試合の結果を知って)ちょっと難しいぞ、というのはよぎった」(SO斉藤玄樹ゲームキャプテン)というのが正直なところだった。
 ただし、今季ここまでトップイーストDiv.1とトップチャレンジを通してシーズン無敗のキヤノンイーグルスを相手に大差をつけて勝つしかなくなったことで、九州電力のメンバーがいい意味で開き直れて試合に臨めた面があったのも、事実だったかもしれない。

「1年間やってきたことだけじゃない。ラグビー人生を懸けろ」(平田輝志監督)
 そんなふうに鼓舞された九州電力のメンバーは、立ち上がりから完璧なまでに自分たちの力を出し切るパフォーマンスを披露し続けた。

 それぞれチームのキーマンであるFL松本允主将、CTBドウェイン・スウィーニーに代わって起用されていたFL平田一真、CTBベン・ジェイコブスが2トライずつを奪うなど、前半だけで5トライ(5ゴール)を記録する猛攻ぶり。
 2トライ、2ゴール、2PGの17失点を喫したものの、ハーフタイムですでにボーナスポイントを獲得。あとは、前半終了時点で18点だったリードを残りの40分間で39点以上に広げられるかの勝負となった。
「行けると確信したのはハーフタイム。あと3本は、前半の状況から言って取り切る自信があった」
 齊藤ゲームキャプテンが代弁してくれたとおり、後半に入ると、九電のこの試合に懸ける気持ちがそのままかたちになって表れたような前に出続けるアタックが加速度を増して、まったく手がつけられない状態になっていった。

九電が見せたラグビーができる幸せを感じながらのプレー

 あと3本のトライ(+3ゴール)で、クボタとの得失点差を引っくり返せるところまで迫った状況で迎えたハーフタイムで確認されたのは「フィールドポジションをとって、セットでプレッシャーかけていくゲームプラン」(平田監督)を続けていくこと。
 後半最初のトライは、まさしく前節から機能しはじめた、九電スタイルが成就したものだった。
 キックオフから敵陣深くで相手ボールにプレッシャーをかけてノックオンを誘って得たスクラムから、WTB早田健二が内側のスペースを切り裂いて中央にトライ。
 5分にも、近場をFWがタテに切り崩した後、齊藤ゲームキャプテン自身がそのアタック力を見込んでこの2試合、「起用を強く希望した」というFB荒牧佑輔がキヤノンのディフェンスを振り切って左隅に飛び込んだ。
 共に齊藤ゲームキャプテンがゴールを決めて、早くもあと1トライ、1ゴールを挙げれば得失点差でクボタを上回れる状況へ

豊田自動織機に58-24で大勝し、TL昇格をほぼ手中に収めたはずのクボタだったが……入替戦ではNTTドコモと対戦(写真はLO今野主将)
photo by Kenji Demura (RJP)
チーム全体がイケイケになる中、冷静なゲームメイクが光った九電SO齊藤主将(手前右)。新人FBの荒牧(中央後方)も思い切りのいいプレーで貢献
photo by Kenji Demura (RJP)

「とにかく、取り急ぐなと指示を出し続けていた」という齊藤ゲームキャプテンの言葉どおりに、10分にはしっかりフェイズを重ねた末に、最後は前半2トライを挙げていたFL平田がディフェンス網を突き破って、クボタとの得失点差はとうとう「1」に。
 このゴール自体は齊藤ゲームキャプテンが外したものの、19分に4たび平田がトライラインを駆け抜けて、九電はとうとう39得失点差を逆転してみせることに成功。
 最後は「本当にこのチームでプレーできて幸せだ」と満面の笑みで語ったLOクリス・ジャックがダメ押しトライを決めて、試合前には「-39」だったクボタとの得失点差の差を逆に「+12」まで伸ばして、九州電力が後世に語り継がれるような大どんでん返しによるトップリーグ昇格を手に入れた。

「ラグビーができることが当たり前ではなくなってきている中、ラグビー部として活動させてもらっていることへの感謝を常に感じながら、1年間、トップリーグ昇格を目指してきた」(齊藤ゲームキャプテン)
 そんな真摯な気持ちがあったからこその快挙だったことも間違いないだろう。
 36歳という年齢を全く感じさせずにトップチャレンジ3試合でフル出場したFL吉上耕平や「周りの選手を成長させられる存在」(平田監督)というクリス・ジャックなど、酸いも甘いも噛み分けるベテランから、平田や荒牧といった怖いもの知らずの若手まで。全員が自らの特徴を最大限に生かしたプレーを見せながら、尚かつしっかりしたゲームプランとゲームリーダーの指示によって最初から最後まで一体感を持って戦い続ける──。
 ラグビーというチームスポーツが持つ最良の部分をここ一番のグラウンド上で体現できたからこそ、胸のすくような奇跡の"逆転劇"は起こり、九州電力はトップリーグ再昇格を果たすことになったのだ。

text by Kenji Demura

鋭い突進で4トライを記録したFL平田(写真右)など、怖いもの知らずの若手がどんどん前に出たのもチームを勢いづかせた
photo by Kenji Demura (RJP)
3年ぶりのTL昇格を手にして喜びを爆発させる九電のベテランFL吉上。この日もフル出場し、相変わらずの鉄人ぶりでチームを引っ張った
photo by Kenji Demura (RJP)

RELATED NEWS