TOPマッチレポート特別編「2011-2012シーズンを振り返る」【前編】

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トップリーグシーズン総括特別企画
"TOPマッチレポート特別編"
TOPスペシャリスト座談会「2011-2012シーズンを振り返る」【前編】


■出席者(五十音順) 稲垣 純一 ((財)日本ラグビーフットボール協会事業委員長)
永田 洋光 (ラグビーライター)
村上 晃一 (ラグビージャーナリスト)
南 隆雄 ((財)日本ラグビーフットボール協会トップリーグ部門長)
■進行/構成 出村 謙知 (フォトレポーター)

サントリーサンゴリアスがトップリーグと日本選手権の2冠を手にして終了した2011-2012シーズン。
大物外国人選手も続々加入する一方、攻撃ラグビーを志向するチームが増えた今季のトップリーグをスペシャリストたちはどう見ていたのか。
恒例となったTOPマッチレポート特別編"TOPスペシャリスト座談会"シーズン総括編を前編・中編・後編の3回に渡って掲載。
前編では、タイトルを争ったサントリーサンゴリアスとパナソニック ワイルドナイツに東芝ブレイブルーパスを加えた3強の戦いぶりを振り返ってもらった。

トップリーグは6カ国対抗よりもレベルが上?

──今季はトップリーグプレーオフファイナルと日本選手権決勝でサントリーサンゴリアスがパナソニック ワイルドナイツを破って2冠を成し遂げたわけですが、とにかくサントリーの強さが目立ちました。

村上 素晴らしかったですよね。パナソニックとは3回やって3回勝ちましたけど、今までは準決勝で東芝とやると、それで疲れてしまって、決勝で負けるというケースが多かったのが、しっかりコンディショニングして、最後の20分でまた一段と動きが速くなるという、もの凄いハイレベルのラグビーを見せてもらった気がします。

永田 日本選手権決勝の日の朝4時までテレビでシックスネーションズのイングランド対アイルランドを見てたんですけど、日本選手権の方がレベルが上だった。

トップリーグと日本選手権の2冠を達成。圧倒的な強さでシーズン完全制覇を成し遂げたサントリー
photo by Kenji Demura (RJP)
トップリーグと日本選手権の2冠を達成。圧倒的な強さでシーズン完全制覇を成し遂げたサントリー
photo by Kenji Demura (RJP)

稲垣 日本選手権決勝に関しては、立場をわきまえずに(苦笑)、ついつい試合に魅入ってしまうほど、素晴らしい内容だったように思います。テレビの解説で大畑大介が『言葉が出ない』と言っていたんですが、まさにその通りの息が詰まるような内容で、史上最高と言っていいくらい両チームとも素晴らしいラグビーをしたのではないでしょうか。
 とにかく、インプレーが長い。プレーが切れないですよね。ノックオンがあっても、必ずターンオーバーから攻め続けるので、なかなかスクラムにならない。それだけ、全員のレベルが高く、なおかつ集中力が凄い表れだと思います。

 この2チームはお互いに意識し続けている同士だと思うので、そういうテンションの高さも最後の最後に最高のハイパフォーマンスとなった理由のような気がします。

永田 日本選手権決勝で印象に残っているのは、前半29分にパナソニックの田邉(淳=FB)がペナルティゴールを狙って、ポストに当たったシーン。そこから3分以上、ゲームが切れず続いた。あとで、パナソニックの霜村キャプテン(誠一=CTB)に聞いたら、あそこは入ると思って、その後のキックオフからどうするかをすでに話していたりして、かなり意表を突かれた感じだったのに、そこから3分攻防を続けられるというのは、もの凄いレベルなんだなというのを実感しました。

 あのシーン、パナソニックは誰も追いかけていなかったですよね。

村上 トライを取られたのもセルフジャッジだったし、パナソニックの方が自分たちで判断してプレーをやめたり、反則をアピールしたり、少しだけ集中しきれない部分があったかもしれない。霜村キャプテンは後から『そんなこと言っている暇があったら動けという話ですよね』と反省していました。
 あと、パナソニックの選手は前半で疲れ果てていたと言っていた。

稲垣 ハーフタイムで引き上げてくる選手の表情が全然違いましたからね。
 でも、パナソニックもよく最後まで持ちこたえた。後半、先にサントリーが取ったりしたらキレちゃうかなという感じだったのに、一時は5点差に追い上げて、ジャック・フーリー(CTB)を投入して、作戦どおりかなというのも一瞬よぎったくらい、"らしさ"は出していた。

パナソニックSOデラーニのパスをインターセプトしたWTB小野澤のトライなど、サントリーには要所でビッグプレーも飛び出した photo by Kenji Demura (RJP)
パナソニックSOデラーニのパスをインターセプトしたWTB小野澤のトライなど、サントリーには要所でビッグプレーも飛び出した
photo by Kenji Demura (RJP)

──パナソニックに関しては、トップリーグプレーオフファイナルでのショッキングな敗戦の後、よく立て直したなという気はしました。
 日本選手権決勝でも基本的にはサントリーが攻める時間帯が多かったわけですけど、とにかく前に出るディフェンスでなかなかトライを許さなかった。

永田 バツベイシオネ(NO8)が今シーズンとても良くなった。日本代表でプレーしていた時よりも。ああいうふうに、しっかりと選手を成長させられるのがチームの力なんですよね。

稲垣 パナソニックでは三宅(敬=WTB)も効いていましたよね。とにかく、労を惜しまない。後輩の山田(章仁=WTB)ももっと見習わなくちゃ。

村上 パナソニックのメンバーは明らかにディフェンス重視でしたよね。フーリーではなくノートンナイト(サム=CTB)を先発させたり。
 今シーズンはちょっと個々に頼っているディフェンスになってしまっていたのかな。前みたいにみんなが頑張っているという感じではなくて。

稲垣 トニー・ブラウン(SO)が引退して、アイブス(ジャスティン=LO)、ホラニ(龍コリニアシ=NO8)もケガでシーズンを棒に振るという状況の中、よくここまで持ってきた。若い選手も多いし、来年以降、楽しみです。

永田 日本のチームって、たとえば8点差くらいで負けていたりすると、まずトライを取りにいって、そこで時間を使い過ぎて、最後逆転しきれないというのが往々にしてある。海外のチームなんかは、まず3点入れて、射程圏に入っていくことを優先する傾向があるような気がするんですけど、パナソニックがそれをやっていたのが印象的でした。すごく、計算しながら戦っているなというのが伝わってきた。

稲垣 パナソニックに関しては、攻めのかたちがなかった。デラーニ(マイク=SO)が持ち過ぎのきらいもあったし。もう少し捌いてくれた方が良かったかなという感じがしました。

──デラーニ関しては、サントリーの圧力を感じて、思うようなプレーができなかったように感じました。デラーニのパスをインターセプトした小野澤(宏時=WTB)は、『まだまだ若いな~』と(笑)。デラーニもスーパーラグビーでの豊富な経験を持つ、NZ代表でもある29歳なんですけどね。

永田 あのループは見え見えな感じでしたからね。
 サントリーは明確でしたよね。パナソニックがシーズンを通して、田中(史朗=SH)とデラーニのところでラインブレイクして、そこから攻めるというパターンがあって、その一番の起点を徹底的に潰していた。

稲垣 ピッチの近くで見ていると、サントリーの選手が『田中、田中』と叫んでいる声が随分聞こえた。ブレイクダウンのところでも、田中がどこにいるか常に意識されていた。

日本選手権決勝ではパナソニックも後半切り札フーリーを投入し、一時は5点差に追い上げるなど盛り上げたが、一歩及ばず
photo by Kenji Demura (RJP)
日本選手権決勝ではパナソニックも後半切り札フーリーを投入し、一時は5点差に追い上げるなど盛り上げたが、一歩及ばず
photo by Kenji Demura (RJP)

熾烈だったトップ3のせめぎ合い

──サントリーは選手層の厚さも目立っていました。

稲垣 トップリーグプレーオフファイナルでは、篠塚(公史=LO)と平(浩二=CTB)がケガして、田原(太一=LO)と岸和田(玲央=CTB)が先発で出たり、プロップの1番も金井(健雄)、尾崎(章)、長谷川(圭太)が怪我で小川(真也=PR)が4人目ですよね。さらに、日本選手権決勝に起用された宮本啓希(CTB)も活躍しました。

──そういうレギュラーではない選手が出ても、全体のパフォーマンスがまったくと言っていいほど落ちないところに、とてつもない底力を感じました。相当、しっかりした練習をしてチームとしてどういうラグビーをしていくのかが個人に落とし込まれていないと、普段出ていない選手が大一番であんなふうに仕事はできないですよ。

永田 パナソニックは中嶋(則文)監督が1年目で、たとえば、これでサントリーもエディーさんが1年目だったら、パナソニックにももっとチャンスがあったかもしれない。今季のサントリーはエディーさんが2年目で、厚みという部分で少し差があったかなという気がします。成功体験をもとに、グッと深みを増した。
 一方、パナソニックはヒーナン(ダニエル=LO)と劉永男(LO)がふたりいるとDFが凄く良くなるんですが、まだそういう個人に頼っている部分が大きい感じを受けました。
 もし、パナソニックが今季と同じかたちでチームを作っていければ、来シーズンはもっと強くなって、いまのサントリーぐらいのところまで行けるのかなという感じはします。ちょうど1年分のハンディみたいな。

41歳のFB松田も奮闘をみせた東芝だったが、トップリーグ、日本選手権とも4強止まりでシーズンを終えた photo by Kenji Demura (RJP)
41歳のFB松田も奮闘をみせた東芝だったが、トップリーグ、日本選手権とも4強止まりでシーズンを終えた
photo by Kenji Demura (RJP)

 
──日本代表主将に指名された廣瀬(俊朗=東芝ブブレイブルーパスWTB)が、決勝戦に関して「厚みの差が出ましたね」とコメントしていたんですが、まさしくその通りだったなという気がします。
 その一方で、パナソニックも一発勝負ならサントリーに勝つ力はあったと思いますし、東芝もレギュラーシーズンではサントリーを破るなど、3強のせめぎ合いも熾烈でした。

永田 エディーさんは、「トップ3とそれ以外のチームとの差がある」と言っていましたが、今季に関しては、確かに格が違うなという気はしましたね。

稲垣 3チームとも、下位チームに食い下がられても、最後は勝ち切ってしまう、どっしりとした感じはある気はします。
 総合力でサントリーが上回ったけど、パナソニックと東芝戦に関してはギリギリの勝負だった。

──その中でも、やはりサントリーの安定感は抜きん出ていた気がします。東芝が神戸やNECに負けたり、パナソニックも相当、薄氷を踏む試合が続いたり……。
 サントリーもレギュラーシーズンで東芝に敗れたわけですが、東芝サイドから「最後の20分でサントリーは落ちる」と言われたのが、相当悔しかったみたいですね。だからプレーオフでも、日本選手権でも最後までフィットネスが落ちないことに相当こだわった試合をしてみせた。

村上 エディーさんは、それをうまく使ったんですよね。「こんなこと言われて悔しくないのか」って。

──どのチームにも負けないだけの練習はしてきた自負はあったから、実に効果的なひとことだった。
 結果的にレギュラーシーズンでサントリーに勝ったことで、逆にサントリーに火をつけたかっこうとなってしまった東芝はどうでしょう。

永田 レギュラーシーズンではPGの3点は捨てていたわけですけど、結局、そこなのかな。ノックアウトステージでいくら戦い方を変えると言っても変えられない部分があるし、常にトライを取りに行こうとして、無駄なエネルギーの浪費につながったり、空回りしていた部分があったのかなという気がします。
 あまりにも、真っ正直というか、何にも変わったことしてこないので、何回もやれば相手に対応される。

村上 読まれても強いラグビーを目指しているんでしょうけど、そこは限界がある。

永田 でも、ああいうスタイルのチームがあるのはいいですよね。

稲垣 みんながみんな同じラグビーやっても面白くないから、力対技の対決になって盛り上がる部分もあったように思います。

(以下、中編に続く)


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