「ジャパンラグビー トップリーグ 2012-2013」シーズンプレビュー【後編】

トヨタ自動車ヴェルブリッツ/福岡サニックスブルース/NTTドコモレッドハリケーンズ/キヤノンイーグルス/九州電力キューデンヴォルテクス

8月31日、ジャパンラグビー トップリーグは記念すべき10周年の開幕を迎える。
当HPでは、新シーズンのスタートに先立って計14チームの戦力分析やプレシーズンマッチの動向などをもとにしたシーズンプレビューを、計3回にわたって掲載。
後編では、昨シーズン10-12位および今季昇格を果たした2チームの現況を紹介する。

8月24日、開幕に向けたプレスカンファレンスで一堂に会した14チームの監督・ヘッドコーチ
photo by Kenji Demura (RJP)

トヨタ自動車ヴェルブリッツ=昨季10位

前年のベスト4から、昨季はまさかの10位へ。
復活を懸けるシーズンに新指揮官を任されたのは、かつてのトップリーグ得点王で日本代表40キャップを誇る名SO廣瀬佳司監督。
昨季はスマートに戦うことを意識して、本来の激しさをどこかに置き忘れてきたかのような戦いぶり。その反省もあって、春からフィジカル面に重きを置いた厳しいトレーニングを積んできた。

「そこまで追い込んではいないです」
8月24日の14チーム合同記者会見の場で練習の厳しさについて質問された廣瀬新監督は、にこやかにそう答えていたが、8月4日に網走で行われた東芝ブレイブルーパス戦では28-47で敗れたものの、ブレイクダウンで東芝を圧倒する場面もあり、復活のきざしは見られた。

注目の新戦力は1年前のW杯での活躍も記憶に新しいNZ代表FL/NO8ジェローム・カイノ。スーパーラグビーのシーズン中に負傷した肩が完治しておらず、開幕には間に合わないが、昨年度NZ最優秀選手に選ばれるなど、その実力は折り紙付きだ。
一方、一昨年のベストフィフティーンでもあったオレニ・アイイの穴を埋めるSOポジションは、冷静なゲームメイクが光るスティーブン・ブレッドと、文字隆也、黒宮裕介の日本人勢の併用か。
7月の菅平合宿で日本代表に復帰したWTB遠藤幸佑はCTBで起用されるケースもありそうだ。

超大物FL/NO8カイノは肩の故障のため開幕には間に合わない
photo by Kenji Demura (RJP)

福岡サニックスブルース=昨季11位

昨シーズンは開幕ダッシュに失敗して第5節まで、なんと5連敗。入替戦を制してのトップリーグ残留という厳しいシーズンになった。
BKの要だったCTB/SO小野晃征がサントリーに移籍したこともあって、原点に戻って走りまくるサニックスラグビーを追求するシーズンとなりそうだ。

夏の期間、各チーム涼しい北海道でキャンプを張る中、あえて暑い九州・宮崎での合宿を敢行。
藤井雄一郎部長兼監督が「できるだけ残暑が長引いてほしい」と、冗談まじりで語るとおり、厳しいコンディションでも80分間ランニングラグビーを続ける走力には絶対的な自信を持ってのシーズンインとなる。

加えて、これまではウィークポイントだったセットプレーにも大きな手応えをつかんでいる。
昨季は鳴り物入りで加わったNZ代表LOブラッド・ソーンのチームへのフィットという面では、物足りない部分もあったが、「今年は全然違う」(藤井部長兼監督)。
開幕前にコカ・コーラウエスト レッドスパークス(トップキュウシュウA)と組んだスクラム練習でも「いままでは1-9くらいで劣勢だったのが6-4くらいの感じで組めていた」(同部長兼監督)という。

世界最高LOのポテンシャルも100%引き出せるようになり、課題だったセットプレーに大いなる自信を持ち始めたサニックスのランニングラグビーは、どんな対戦相手にとっても脅威となることは間違いなさそうだ。

LOソーンが完全にチームにフィットしたこともあって、今季はセットも安定
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NTTドコモレッドハリケーンズ=昨季12位

初昇格の昨シーズンは自動降格一歩手前の12位。それも、レギュラーシーズン最終日にHonda HEATとコカ・コーラウエスト レッドスパークスが揃って敗れたため、辛うじて自動降格を逃れ、さらに入替戦でもクボタスピアーズに際どく逆転勝ち(29-27)。
まさに、薄氷を踏みながらとも言えるようなギリギリの状況で残留を果たした。
そんな厳しい1シーズンのトップリーグ経験を経て、今季は「まずは、フィジカルレベルでも、コンタクトレベルでも、トップリーグで戦っていけるようになるために徹底的に追い込んできた」(高野一成ヘッドコーチ)。

夏のプレシーズンマッチでは、新昇格のキヤノンイーグルスや地方リーグ所属のコカ・コーラウエストや三菱重工相模原ダイナボアーズも含め5戦5敗に終わったが、他チームより早く合宿を始めて状態が良くなかった面も。結果は出ていないが、首脳陣は、むしろ、上位とも対等に戦っていけるようになった手応えを感じている。

昨シーズンの最後の入替戦で逆転トライを決めたのは、百戦錬磨のNO8箕内拓郎元日本代表主将だった。高野ヘッドコーチも、箕内はチームの精神的支柱だといい、「トップリーグでの経験値というのは大きい」と実感したという。
今季も、いずれもリコーブラックラムズからCTB金澤良(日本代表3キャップ)、FL金栄●(金へんに大)(日本A代表)、そしてNECグリーンロケッツからSH安承●(火へんに赫)(韓国代表)が新たに加わり、経験値という意味でも大きな戦力アップが期待できそうだ。

チームの精神的支柱はNO8箕内。リコーから移籍のCTB金澤、FL金の活躍も期待される
photo by Kenji Demura (RJP)

キヤノンイーグルス=初昇格

初昇格のチームは早くも開幕前にトップリーグの洗礼を受けた。
8月17日にヤマハ発動機ジュビロとのプレシーズンマッチに臨み、0-72という屈辱的とも言えるスコアで大敗。当然、選手たちは大きなショックを受けたが、永友洋司監督は「トップリーグではこういう厳しい戦いが続くという覚悟を決める、いいきっかけとなった」と、前向きにとらえている。

今季も16人の新人が加わるなど若いチームだけに、高いレベルでの戦いを続ける中でいかに成長していけるかもポイントになる。
「若い選手たちはどんどん成長する伸びしろがあるので、3年後、5年後も見据えながらの戦いになる」(同監督)
そんな長いスパンでのチームの土台づくりの一方で、初昇格の今季は3年目を迎えるLOアルベルト・ヴァンデンベルグ(元南アフリカ代表)、新加入のLOケーン・トンプソン(サモア代表)、CTB/WTBアイザイア・トエアバ(元NZ代表)とった、外国人選手を核にした現実的な対応をしていく準備もできているようだ。

トライを取るアタッキングラグビーを目指すが、まずはFWのボール獲得率、そしてジュニア・ジャパンにも選ばれているSO橋野皓介、1年目の福居武(U20日本代表)など、若いハーフ団のゲームマネージメントが重要になる。

アタックの中心はジュニア・ジャパンにも選ばれているSO橋野
photo by Kenji Demura (RJP)

九州電力キューデンヴォルテクス=3年ぶり昇格

チームスローガンは「本気!!」。
昨季のトップチャレンジ1で奇跡の昇格を勝ち取った九州電力キューデンヴォルテクスらしく、常に本気になればどんなことだって可能だと言うメッセージが込められている。

半年前のトップチャレンジ最終戦で、昇格のために必要だった「39点差」を遥かに超える「51点差」(68-17)をつけてキヤノンイーグルスに大勝してみせたとおり、3年ぶりの昇格となったチームは過去のイメージとはだいぶ異なる特徴を持っている。
「元々九電というとDFのイメージが強かったと思うのですが、勝つためにはまずはアタック。トライを取るラグビーに取り組んでいる」(平田輝志監督)

トップリーグ相手とのプレシーズンマッチは勝ち星なしに終わったが、内容的には手応えをつかんだ部分も少なくない。
「コンタクトで当たり負けもしていないし、もうひと踏ん張りできれば上位チームにも接戦に持ち込める」(FL松本充主将)

36歳のLO吉上耕平プレイングコーチを筆頭に、松本主将、FL平田一真、SO齊藤玄樹、WTB早田健二、FB荒牧佑輔など、大学ラグビーで活躍した選手も多く、新人もFL高井迪郎、WTB/FB正海智大のU20日本代表コンビなどが加わった。
外国人選手も元オールブラックスのLOクリス・ジャック、SO/CTBベン・ジェコブス、CTB/FBドウェイン・スウィーニーなど粒は揃っており、トップリーグでしっかりした成績を残していけるだけの戦力ベースは十分ありそうだ。

落ち着いたゲームメイクでチームを引っ張るSO齊藤副将
photo by Kenji Demura (RJP)

text by Kenji Demura

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