#07: モール
text by Hiromitsu Nagata
相手の反則。ペナルティキックをタッチに蹴り出して、相手ゴール前でマイボールのラインアウト。ラインアウトの真ん中にボールを合わせて獲得。そのままモールを組んで押し込み、インゴールに雪崩れ込んでトライ……。
ラグビー場でよく見かける光景だ。
ルールをわからなくても、モールを押し合う両チームの姿は「いかにもラグビー」という感じがするし、周りに合わせて「押せ!」と叫べば違和感なく競技場の雰囲気に溶け込める。だから、「退屈なラグビー」と批判されながらも、モールに対するファンの支持率は意外に高い。押しくらまんじゅう的なわかりやすさも、初心者には嬉しいところだ。
モールのなかではどんなことが行われているのだろうか。
まずモールの定義。
ボールキャリアが相手に捕まり、捕まえた相手の選手ともども立ったままでサポートを待つ。そこに攻撃側のサポートが来て、ボールを持っている選手とバインドすれば、そこでモールが成立する。ラックがボールの上で敵味方双方一名ずつで組み合えば成立するのと違って、モールの場合は最少でも3人が必要なのだ。
ラインアウトからモールを組む場合は、ボールを捕った選手が、着地する寸前に味方にボールを手渡しする。ボールを受けた選手は、相手に当たる前に身体を反転させてモールの核となる。その両脇にサポートが寄って、相手を遠ざけるためのくさびに入る。続く選手は、ボールをもぎ取って腹に抱え、後続の選手に手渡しする。その間、味方同士もがっちりと腕でバインドする。この密着度が強ければ強いほど、相手に簡単に崩されなくなるのだ。
ボールを相手からなるべく遠ざけることも大事なポイント。観客席から見て、モールの中心から最後尾でボールを持つ選手までの距離が長ければ長いほど、「いいモール」となるわけだ。
押す方向は、攻撃側はゴールポストを目指し、防御側は逆にタッチライン方向に押す。
ここで重要なのがSHの指示だ。
背番号9の小柄なSHが、モールの後方で大男のお尻を叩き、ときにはジャージーをつかんで「そこではなく、こっちへ入れ!」と怒鳴っている場面をよく見かけるが、あれは力を集中させる方向にFWを集めているわけだ。
99年の第4回W杯では、アイルランドがアルゼンチンゴール前のラインアウトにバックスも含めて13人の選手を並ばせ(SHとスロワーを除く全員)、14人でモールを組んで押し込んだが、アルゼンチンに懸命に食い下がられてついにトライを奪えなかった。モールを組み慣れていないバックスがモールに入ったため、しっかりとバインドを固めることができなかったのが原因だ。
モールもスクラムと同様、組み方をしっかりわかっていないと有効な武器にはならないのだ。
![W杯で素早いパスさばきが高い評価を受けた日本代表SH日和佐](/bn/news/images/2011/mikata/7_maul.jpg) |
W杯NZ大会の対カナダ戦でモールを組む日本代表
photo by Kenji Demura (RJP) |
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