「プレーオフトーナメント セミファイナル」マッチサマリー(神戸製鋼 19-27 サントリー)

神戸製鋼
コベルコスティーラーズ
神戸製鋼コベルコスティーラーズ
19 合計 27
12 前半 14
7 後半 13
サントリー
サンゴリアス
サントリーサンゴリアス

神戸製鋼コベルコスティーラーズ 19-27 サントリーサンゴリアス

プレーオフトーナメント セミファイナル
2014年2月2日(日)14:00キックオフ/東京・秩父宮ラグビー場

ここ数年トップリーグは、サントリーサンゴリアスとパナソニック ワイルドナイツ、それに東芝ブレイブルーパスのいわゆる3強の時代と言われて久しい。このプレーオフトーナメントも、ここ数年この3強にいずれかのチームが一つ加わり、激しい闘いが繰り広げられてきた。今シーズンは、ファーストステージ・セカンドステージを通して、神戸製鋼がその3強に割り込み堂々3位通過をして、このプレーオフに2年連続出場することになった。神戸製鋼の頑張り次第では、3強時代に終止符を打てることになる。そう考えると、神戸製鋼にとってもトップリーグファンにとっても、この試合は大変意味をもつ試合になる。

天候は上々、むしろ出場している選手達には暑いくらいの気温であった。風も微風で、観客には絶好のラグビー観戦日和である。この両チームはトップリーグが始まってからは、サントリーの11勝1敗2引分けという対戦成績である。神戸製鋼が日本選手権7連覇を達成するなどサントリーの分が悪かった全国社会人ラグビー時代は今は昔、神戸製鋼にとっても復活を期した今シーズンであったのだろう。

先制は、神戸製鋼だった。7分、シーズン途中からSOとして起用されてきた正面健司が、サントリーディフェンスのギャップを突き、見事なランを見せゴール真裏に飛び込みトライを取った。神戸製鋼は、敵陣22mラインに入ると28%はトライに結び付けるというデータ通り、この試合初めての22mラインに入ってからの速攻であった。CTBクレイグ・ウイングのゴール成功(神戸製鋼7-0サントリー)。

しかし、3連覇を狙うサントリーも徐々にペースを取り戻す。この先制トライを献上しても、チーム内の動揺はほとんどなかったように見受けられた。18分、神戸製鋼SO正面健司のタッチに出したキックを直接取ったサントリーFB有賀剛がSHフーリー・デュプレアにクイックスローを行い、パスを受けた今シーズン10トライを取った新人WTB塚本健太がゴール前まで持ち込んだ。そして仕上げはこの人、FLジョージ・スミスが神戸製鋼のゴールを割った。CTBニコラス ライアンのゴール成功(神戸製鋼7-7サントリー)。

トライを奪ったジョージ・スミスは、ラックで相手ボールを奪うジャッカルであまりにも有名であるが、この試合の前半は神戸製鋼でこの日PRで先発起用された安江祥光も、ジョージ・スミスに対抗してラックでことごとくボールに絡んでいた。この両チームのブレイクダウンの攻防は、目の肥えたラグビーファンを唸らせたことであろう。

同点に追いついてからは、サントリーは本来のキックを使わず走ってつなぐラグビーを更に展開した。中でもSO小野晃征は、ディフェンスの布陣を見てパスを自由自在に放り、パスしたかと思うと次は自分で走るというのを繰り返し、大きくゲインラインを切って行った。そして30分、自らのランで敵陣22mラインに入り込み、FWがフェーズを重ねたが、最後はまた神戸製鋼のLO伊藤鐘史とWTB大橋由和のタックルを振り切り小野がトライを取った。決して相手に触らせずステップで綺麗に抜ける訳ではなく、相手にタックルされながらも抜けていくので、タックルにいった選手達はさぞ悔しかっただろう。ニコラス ライアンのゴール成功(神戸製鋼14-7)。

前半残り10分足らずになり、陣地はほぼ神戸製鋼陣内で、ボールポゼッションもサントリーが圧倒していた。しかしこの日のサントリーは、オフザゲートでのオフサイドが多く、神戸製鋼を突き放すまでは至らない。レフリーの原田隆司氏も、一貫してオフザゲートに厳しく笛を吹いていた。

そしてこのまま前半終了かと思われた39分、神戸製鋼BKがライン攻撃で大きくゲインして、22メートルラインを超える。サントリーにとっては、相手のディフェンスを見てパスに徹するCTBジャック・フーリーがいつ自ら仕掛けてくるか気が気でなかったと思われる。左右にボールを大きく振って、ジャック・フーリーは繋ぎのパスに徹し、最後は同じく南アフリカ共和国出身で今シーズンサントリー戦では初出場となる2m8cmのLOアンドリース・ベッカーが、左隅にその巨体を沈めた。タッチライン際での倒れる時の体の運び方や足の使い方が、お手本のようなトライであった。クレイグ・ウィングのゴール失敗(神戸製鋼12-14サントリー)。

ここで、前半終了。セミファイナルに相応しいスリリングなゲームになった。

後半は、両チームメンバーの入れ替えなしで始まった。後半の最初の10分は、神戸製鋼の時間だった。サントリーゴール前5mまで迫るものの、そこから取りきれない。サントリーLO真壁伸弥主将は、「ゴール前は常に意思統一して守っている」。その間の後半5分、サントリーはニコラス ライアンのPGで引き離しにかかる(神戸製鋼12-17サントリー)。

この試合は、中東とアフリカにTV中継があったと聞く。両チームの3人(フーリー・デュプレア、アンドリース・ベッカー、ジャック・フーリー)のスプリングボクス達も、母国南アフリカにも中継されたのは知っていただろう。後半13分、前半最後と同じくLOベッカーが右隅にボールを持ち込んだ。しかしそれに立ちはだかったのは、相手SHフーリー・デュプレアであった。デュプレアは、ベッカーをインゴールで体ごと抱え込みトライを防いでいる。まさに、超がつくファインプレーであった。ベッカーが苦笑いしながら、デュプレアと軽くタッチして戻っていったのが印象的だった。

そしてその5分後の後半17分、神戸製鋼にとってこの上ないチャンスがやってくる。前半からジャック・フーリーをしつこくマークしていたニコラス ライアンが、インテンショナルノックオンによりシンビンとなり10分間の一時退場を命じられた。
ここから、神戸製鋼は怒涛の攻めを見せる。そしてついに、後半22分FL前川鐘平の突進からチャンスを掴む。神戸製鋼は、FWで何度もサントリーゴールを脅かしたがトライまで至らず、BKに回してSO正面健司がゴール前10メートル付近でインゴール目掛けてゴロパント。ニコラス ライアンのいないサントリーのBKラインはラン攻撃と決めつけていたのか、インゴールはガラガラで今シーズン17トライのトライ王CTBジャック・フーリーがバウンドにうまく合わせてなんなくキャッチし、ゴール正面まで持ち込んで同点トライを奪った。クレイグ・ウィングのゴール成功(神戸製鋼19-17サントリー)。

ここから、ニコラス ライアンのシンビンが解けるまで逆転してから5分程あった。結果論かもしれないが、神戸製鋼としてはここで畳み掛けたかったに違いない。しかし、試合はその意思とは真逆の方向性を辿る。

後半25分、14人のサントリー選手が神戸製鋼陣内に入った。そしてこの日、レギュラー選手のケガでNo.8に抜擢された小澤直輝が、ゴールラインまで25mはあろう地域でボールを受け取った。小澤は今シーズンはHOにも挑戦し、とにかくよく練習をする選手と聞く。その小澤が、ボールを持つやゴールまで走り切った。途中FL前川鐘平、SH佐藤貴志、FB田邊秀樹のタックルを受けながらも、「チームで一番エナジーのある選手、一番練習してきた(サントリー大久保直哉監督談)」小澤が、練習は嘘をつかないをそのまま体現した。トライを取った小澤に駆け寄るサントリーの選手達も、まるで自分でトライを取ったかのように喜んでいた。小野晃征のゴール失敗(神戸製鋼19-22サントリー)。

この時点で得点差は3点と、まだ神戸製鋼にも勝つチャンスは残されていた。しかし、ニコラス ライアンのシンビン中で、しかもチーム内の信頼も大きいなど、この小澤のトライがこのゲームの勝敗を分けたように感じる。冒頭に記したトップリーグの3強は、ここ数年このようなゲームを数多く経験し、他のチームから勝ち切ってきた。この実績と経験の差は、如何ともし難く大きい。

ここからノーサイドまでの15分間は、一進一退の攻防が続いた。最後試合終了を告げるフォーンが鳴ってから、ニコラス ライアンがPGを狙った。そのキックが大きく逸れ、神戸製鋼が自陣インゴールから攻めだした。試合終了後の神戸製鋼苑田右二監督曰く「プレーの正確さ、精度でサントリーを上回れなかった。攻守の意思統一にまだムラがある」という言葉のまま、自陣ゴールライン付近のラックから出したボールを取りきれず、そのままPR石原慎太郎に押さえられてトライを許した。このプレーが象徴するように、苑田監督の悔しさが見て取れる。ニコラスライアンのゴール失敗(神戸製鋼19-27サントリー)。

最終スコアは8点差となったが、FL橋本大輝主将は「アタックでは上回れた」。苑田監督も、「いい準備をして、(日本選手権で)もう一度悔しさを晴らしたい」と意欲満々である。選手個々の実力は、決して3強に劣らないビッグネームが並んでいる。苑田監督の言葉通り、是非日本選手権でリベンジを果たしてもらいたい。

またサントリー大久保監督は、「チャレンジャーとして、パナソニックに臨みたい」。決勝は、ここに来て絶好調のパナソニックが相手だけに3連覇をかけるというより、チャレンジャーという言葉が出てきたのかもしれない。いずれにしても、トップリーグのファイナルは、最後まで手に汗握る好ゲームが期待できる。



● 記者会見ダイジェスト ●

神戸製鋼コベルコスティーラーズ


苑田右二ヘッドコーチ(左)、橋本大輝キャプテン

苑田右二ヘッドコーチ

「本日は素晴らしい環境で試合をさせて頂き、感謝申し上げます。42週間、48人の選手とスタッフが取り組んで来ましたが、目標である日本一を達成できませんでした。責任を感じています」

──15人対14人の場面は?

「相手のキックオフの立ち位置が、後半から逆になったのですが、こちらが逆に行ってしまってボールを保持することができませんでした。そのラインアウトから、ミスタックルがあり、相手にトライされました。細かいブレイクダウンにおいてクイックで出せないとか、そういう、まだ我々のやるべきことが出せなかった面がありました。ゲームのアヤの部分です。相手のことをしっかりスキャンして、ポジションを変えられないとかが、こういうセミファイナルの勝敗を分けると思います」

──ゲームプランは?

「ゲームポジションは、ボールを保持して攻める時間を長くすることでしたが、ファーストフェイズでミスが出て、無理に回してターンオーバーされました。一人一人がゲームプランでない動きをしてしまいました。後半、相手が14人でチャンスもあったのですが、その時にトライをもう一本獲れなかったことが非常に残念です」

──これまでの対戦と違った部分は?

「我々が練習でやっていることを、すべて試合に出せたら違う結果になっていたでしょう。我々の正確なプレーが、サントリーさんより劣っていたと思います。たとえば、モールで、相手BKが一人少ないのだから、早く出すプレーなどができず、サントリーさんの方が一枚上手でした」

──日本選手権に向けて?

「まだ、日本一のチャンスがありますから、一つ一つ、目の前の試合に良い準備をして、国立の決勝の舞台に立ちたいと思います。去年は、国立で負けているので、勝ってシーズンが終われるよう、しっかりやっていきたいと思います」

橋本大輝キャプテン

「本日は素晴らしい環境でプレーさせていただき、ありがとうございました。勝つチャンスはあったのですが、自分たちでそのチャンスを手放してしまったと思います。本日は、ありがとうございました」

──プレーの精度が良くなかったわけは?

「相手のプレッシャーもキツかったのもあるし、今日のゲームの中でキツい時間帯が長かったです。ゲームを通して、コミュニケーションが欠けていたと思います」

──人数が多い時に逆に点を取られたが?

「スコアされたのは、ほとんど僕らのミスでターンオーバーされてからのプレーです。エリアコントロールもマイボールキープもできず、ミスが重なってエリアを取られました」

──今日は相当迫ったが?

「アタックの部分では、相手を上回ることができたと思います。少ないアタックチャンスにトライが獲れましたし。キツい時間帯でどういうプレーをするかが勝負のターニングポイントだったと思います」


サントリーサンゴリアス


大久保直弥監督(右)、真壁伸弥キャプテン

大久保直弥監督

「今日はありがとうございました。正にセミファイナルというゲームだったと思います。なぜ勝ったのかよく分かりませんが(苦笑)、少しこちらに運があったかなと思います。前回、50点取られて負けているので、ファイナルでは神戸製鋼さんの分も、チャレンジャーとして臨みたいと思います」

──プレーの精度が高かったが?

「それがファイナルということだと思いますし、ファイナルで緊張しない選手などいません。多少、重いかな、堅いかなというところがありました。そのプレッシャーの中でどう戦うかが、レギュラーシーズンと違います。ただ、もっとサントリーらしく、この1週間、リスクを恐れずに準備したいと思います」

──小澤選手は?

「本当に、振り返ってみると、フッカーの練習もあり、彼がチームで一番練習していました。若い力というのが私たちにとって非常に大きいです。勿論、失敗もありますが、過去2年間勝ってきて世代交代は課題でもあります。彼のようなエナジーのある選手たちに引っ張ってもらわないと。そういう意味でも使っていきたいですね」

──フーリー・デュプレア選手の出来は?

「今日は南アフリカにも放送されているし、フーリー・デュプレア選手は、今週、テンションが高かった(笑)。いつも以上に集中力も高くて、母国と家族が見ているし、相手チームにスプリングボクスの同僚もいるからだと思います」

──ジャック・フーリー選手、アンドリース・ベッカー選手対策は?

「勿論、神戸製鋼さんは一人一人の選手の能力が高いので、あまり一人に集中するチームディフェンスとして、良くないので。引き続き、うちはあまり大きなFWがいないので、チームで攻める、守るを徹底したいと思います。決勝のパナソニックさんにも素晴らしい選手がいるので、チームで守るという意識で臨みたいですね」

──決勝は?

「今シーズンのパナソニックさんは、万全の隙がないチームです。倒し甲斐があります。本当に、この3年間で一番チャレンジできる相手です。最高の舞台で、最高のチームパフォーマンスをお見せしたいと思います」

真壁伸弥キャプテン

「今日はしっかり我慢して勝ったので、勉強になった試合でした。次はパナソニックさんなので、しっかり準備したいと思います」

──ゴール前のピンチの場面は?

「ヤマハ発動機戦で、モールでやられたので、あの場所は、守って勝つという意識がありました。前の試合で悔しかったことを皆で口に出して、キーワードにして臨んだ結果だと思います」

──シンビンの時間帯は?

「まずはペナルティをしないこと。14人で敵陣へ行くため、ハードワークしようと。相手陣でトライを獲り切らないと、次はないので、アタックしようと言いました」

──我慢が上回ったのは?

「やはり、自分たちの色というか、武器である我慢をしっかりしようと(横から監督が『最後のスクラム(が象徴)です』と讃える)」

──決勝は?

「前の試合では、自分たちのラグビーをさせてもらえなかったので、そこにフォーカスして臨みたいと思います」










RELATED NEWS