ファーストステージ第1節 マッチサマリー(パナソニック 26-39 東芝)
パナソニック ワイルドナイツ 26-39 東芝ブレイブルーパス ファーストステージ・第1節 プールA 開幕節の好カードに、あるいはこの春の代表チームの活躍がもたらした日本のラグビーへの期待が、この日の秩父宮ラグビー場には充満していた。その期待を引き寄せたのは、東芝ブレイブルーパスだった。昨シーズンは4度の対戦(プレーオフトーナメント準決勝含めトップリーグで3度と日本選手権決勝)全てに敗れた相手を後半圧倒し、「今日負けたら優勝はないと思っていた」(東芝・冨岡ヘッドコーチ)という開幕戦を制した。 汗でボールが滑り、例年ならハンドリングエラーが多発する開幕戦。この晩は強く吹いた風のおかげで、それ程蒸し暑さは感じられなかった。前半その強風を背中に受けていたのは東芝だったが、昨シーズンの王者パナソニック ワイルドナイツのディフェンスは、東芝FWのモールドライブ、ボールキャリーを断固許さなかった。パナソニックはブレイクダウンからのSH田中史朗のフラットなパスに走り込んで来るランナー達が、東芝ディフェンスに少しずつ食い込んで行く。後退した東芝が犯した反則で2分にSOベリック・バーンズがPGを決めた後の11分には、ゴール前PKから田中が速攻。昨シーズンはインパクトプレーヤーとして途中出場が多かったが、今シーズンは13番を着ているJP・ピーターセンが先制トライ(ゴールはバーンズ)をあげ、10-0と試合の入りはパナソニック優位。 パナソニックは東芝のキックで自陣深くに下げられても、ワイドに展開したり、ショートサイドを攻めたりと、テンポよくボールを繋いでチャンスを作り出して行く。今シーズンから監督に就任した名将ロビー・ディーンズの母国=ニュージーランド代表のような魅力的なアタックだったが、その後2つ目のトライは、実に試合終了間際まで待たねばならなかった。 東芝は14分過ぎ、敵陣でのスクラムからSO廣瀬俊朗のパスに鋭角に走り込んだCTB仙波智裕がラインブレイクしてトライ寸前まで迫り、盛り返す。ここで得たPKを攻め急がず、確実にSH小川高廣が3点を返してチームを落ち着かせると、19分には得意のラインアウトモールからこの日ゲームキャプテンのWTB大島脩平が右隅にグラウンディング。今シーズンから採用されたテレビジョンマッチオフィシャルにより初のトライが認められた。小川が難しいゴールも決めて10-10の五分とする。 「10点先行されたことに焦りは感じなかった」(大島ゲームキャプテン)という東芝は、立ち上りのパナソニックの攻勢に対し、PGを交えてすぐに追い付いたことが大きかった。前半30分以降は逆に東芝が攻勢に出て、巧みなターンでラインブレイクしたFB夏井大輔がゴール前まで持ち込むと、ラックからPR浅原拓真が2つ目のトライ(小川のゴール)で逆転して前半を折り返した。 パナソニックが風上となる後半、前半ほどには風が強くなくなっていた。試合後ディーンズ監督が「前半のようなプレッシャーをかけ続ける事ができず、それを開放してしまった」と話した後半は、逆に東芝がパナソニックにプレッシャーをかけていった。15分にはラインアウトモールからFLスティーブン・ベイツが象徴的なトライをあげ、驚きと歓喜が入り混じった歓声でスタンドも盛り上がる。さらに20分には、この日マン・オブ・ザ・マッチに輝いた小川がラックから少し離れた位置を鮮やかなパスダミーで鋭く抜け出し、そのままインゴールへ飛び込むと、スタンドのボルテージは最高潮に達した。終盤にもパナソニックのパスをカットして繋いだ後、途中出場のPR森太志が見事なステップで5つ目となるトライをあげてダメを押した。自らの初陣を飾った冨岡HCは、「試合中もインカムを通して<エナジー、エナジー>と言い続けた」と、メンタル面の充実を勝因にあげていた。 一方敗れたパナソニック。後半は反則も多くなり、バーンズの1PGと終了のホーンが鳴った後のCTB林泰基のトライ(バーンズのゴール)だけに抑えられてしまった。「勝ちたい気持ちが東芝より少し足りなかった」と話したHO堀江翔太主将は、スクラムでも相手にプレッシャーをかけられていた事を認めた。「今日の(東芝が気持ちを前面に出してかかってくるはずだという)結果は予測していた」というディーンズ監督だが、「プレシーズンからステップアップしている。これからもよくなって行く」と、シーズンを通じてチャレンジしていく気持ちを強調していた。(米田) ● 記者会見ダイジェスト ●
パナソニック ワイルドナイツ ディーンズ監督(右)、堀江キャプテン ロビー・ディーンズ監督 「こういった結果を予測はしていました。やはり、去年の日本選手権決勝の再現で、東芝さんは良く準備してきていました。選手は良く戦ってくれたと思います」 ──タフな試合だったがパナソニックにとって? 「前半から、うまく戦えなかったわけでなく、勝てるポジションにいたと思います。特に後半はプレッシャーを掛け続けることができず、逆に東芝さんにプレッシャーを掛けさせてしまいました。結果としてペナルティを与えて、ディシプリンを保てませんでした。キャプテンも言ったとおり、獲れるところで獲らないと、こういうゲームになります。開幕戦はプレシーズンからのステップアップで、迷いもあったようですが、これからどんどん私たちは良くなっていきます」 ──結果の予測はどうしてできたのか? 「こういうゲーム結果を予測したわけではなく、東芝さんがあのように気持ちを前面に出してくることを予測していました。去年、日本選手権決勝で負けたという出来事が、彼らの気持ちを高めることは、十分予測できていました」 ──内田啓介選手のパフォーマンスは? 「非常に良かったと思います。ルーキーで、なんでも一人でやろうとしなくて良いよ、と言って出しましたが、落ち着いてパフォーマンスもディフェンスも前へ良く出ていました」 ──ヘッドコーチとして敗戦のスタートだが? 「私は、このチャレンジにエキサイトしています。今日も、コーチとしてのいつもの一日でした。すべてのトーナメントで勝ち続けることはできません。チャレンジを一つひとつ積み上げていくだけです」 堀江翔太キャプテン 「お疲れ様です。今日の結果としては東芝さんが勝ったということでしたが、こちらも、最後まであきらめず、ラスト2分で得点できました。あれをもっと前半から出していけばよかったと思います。何が足りなかったか、課題、反省を生かして次のゲームからやっていきたいと思います」 ──去年と比べて? 「そんなにチェンジはしていないで、マイナーチェンジのみでしたが、うまくかみ合わず、少し人任せの所があったと思います。僕自身も含め、もう少し新しい選手としっかり落とし込み、もっとベクトルを人に向けずに自分自身に向けて、理解してチームのためにやっていきたいです。今日は、一人ひとりが頑張ってバラバラになる傾向がありました。戦い方としてうまくなかったと思います」 ──スクラムで何回かプレッシャーを受けていたが? 「結構、プレッシャーが来ていて、修正しようとしましたが、少し東芝さんのスクラムが優勢な場面がありました。あとは五分でしたが」 ──ラインアウトは? 「ラインアウトモールでアタックし、獲れると思いましたが、駆け引きでモールを割られたりしたので、もう少しやらなくては。ディフェンスも、もう少し強くしたいと思います」 東芝ブレイブルーパス 富岡ヘッドコーチ(右)、大島ゲームキャプテン 冨岡鉄平ヘッドコーチ 「えっと、初めてなんで、何を言えば良いのでしょうね。試合後の選手の表情が期待を裏切らなかったことでしょうか。東芝はやれると選手が感じましたね。これが欲しくて、4月14日からスタートして、どこのチームより仕上げを急いで来ました。プレマッチ戦でサントリーさんと試合し、その後、他のチームの仕上がりも見て、東芝が図抜けて仕上がっていると感じていました。今日、勝たなければ、東芝の優勝はないと思っていましたが、最高のスタートが切れました。満足しています」 ──勝因は? 「僕は去年の4連敗なんて考えていません。目の前の相手をどうするか、どこが相手でもオープニングに集中しようと。今日は、前任の和田監督が強いチームを作って、礎を守ってくれたから勝てたのだと思います。選手のエナジー、パッションが今日のテーマでしたが、どちらが良い準備をして勝利に相応しいかを、大島も言ったように選手が感じていたことが今日の勝因です」 ──最高のスタートだが、描いているストーリーは? 「それはもう、勝っていって連勝で行ければ良いのでしょうが、足をすくわれることもあるでしょうし、相手も必死ですから、東芝の存在感、アイデンティティを示し続けてくれれば、勝とうが負けようが関係ない、情熱のあるチームになってくれればよいと思っています」 ──FWは? 「今日の勝因はスクラム、ラインアウトで、FWで勝ったこともあります。ここで負けたら、(これからも)負けると。相手のメンバーを見て、良いコンテストができると思っていたとおりでした」 ──今日の勝利は? 「今日、転んでしまうと、苦しくなると思っていました。尊敬しているロビー・ディーンズ監督とは、経験値でも比べ物になりません。エディー(・ジョーンズ 日本代表ヘッドコーチ)さんはじめ、世界的な良いコーチが大勢日本に入って喜ばしいし、習いたいと思っています。ただ、ロビーさんのところの選手も言っていましたが、試合は選手がやるものだと。その点で、選手のメンタリティ、パッション、エナジーは重要です。それが良い状態になって選手が臨めるよう、僕は選手が自信をもって出ることだけを考えていました。選手が勝ってくれて、どこか不安げなヘッドコーチを盛り立ててくれたと思います」 大島修平ゲームキャプテン 「パナソニックさんには、去年4連敗して、もう一度戦えると思い、今日の試合が優勝できるかどうかの一番の壁になると思って臨みました。僕も含め、優勝を知らない選手が多く、優勝を味わった人たちには余裕があるかもしれませんが、僕らは優勝したいという気持ちだけで臨みました」 ──ゲームメイクは? 「ボールを大きく動かそうとチャレンジしました。この時期はスリッピーで、気を付けなければいけないのですが、シーズンを通して戦っていく中で、もっとボールを動かして、FWだけでなく、スピーディーな展開を試みました。東芝はWTBをあまり使わないと(笑)、言われていますが、そんなことないぞと」 ──初のTMO(テレビジョンマッチオフィシャル)トライを記録したが? 「トライしたと自信はありました。TMO中は、今か今かと楽しみながら待っていましたが、決まった時は、正直、感動して嬉しかったです」 マン・オブ・ザ・マッチは、東芝ブレイブルーパスのSH小川高廣選手
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