トップリーグ 2016-2017 weekly preview:特別編「日本選手権 決勝」

アグレシッブ・アタックが進化するTL王者サントリーか
DFからのカウンター冴え出した前年覇者パナソニックか

text by Kenji Demura

29日、東京・秩父宮ラグビー場で日本選手権決勝戦が行われる。

21日の準決勝を経て、日本一を決める一戦に勝ち上がったのは、サントリーサンゴリアスとパナソニック ワイルドナイツ。
トップリーグを制したサントリーが勝てば、4年ぶりの2冠達成(日本選手権優勝自体は7度目)。
一方、パナソニックがトップリーグのリベンジを果たせば、2年連続6度目(三洋電機時代を含む)の同タイトル獲得となる。

ポーコック対G.スミスも! 世界最高峰のマッチアップも散りばめれた究極の頂上決戦になりそうだ photo by Kenji Demura

ポーコック対G.スミスも! 世界最高峰のマッチアップも散りばめられた究極の頂上決戦になりそうだ
photo by Kenji Demura

パナソニック 36—24 ヤマハ発動機
サントリー 54—29 帝京大学

仮に準決勝2試合を見ないまま最終スコアだけで判断したとするなら、大学王者の挑戦を余裕を持って退けたのがサントリーで、トップリーグ2位対3位の厳しい戦いを乗り切ったのがパナソニックという図式が成り立つかもしれない。
もちろん、多くのラグビーファンがご存知のとおり、先週の土曜日に東大阪市花園ラグビー場で起こったのは、そんな常識的な邪推とは真逆な出来事だった。

「だらしない試合」
4年ぶりのトップリーグ制覇を全勝で決め、完全なる王者として帝京大と相対したサントリーの沢木敬介監督は、最終的に25点差をつけた準決勝の後、怒りを内に秘めたような表情でそう語った。
「どこかにスキがあり、ハングリーさに欠けていた。メンタルのところ。態度のところ」

最終的には点差は広がったものの、前半終了時点では21—21の同点。カウンターアタックからバックスリーに大きくゲインを許し、あるいはFWによる力づくのプレーで帝京大に前半だけで3トライを奪われた。
「勝ちたい気持ち、ハングリーさなど、サントリーが大事にしている部分で帝京大に上回られた。いい勉強になった。生かすも捨てるのも僕ら次第。1週間いい準備をしてパナソニック戦に臨みたい」

自らの後輩たちから受けたハードレッスンで得た教訓を決勝戦で生かすことを誓うのはSH流大主将だ。
パナソニックに対しては、今季のトップリーグ第4節で対戦し、帝京大戦以上の点差(45-15)で完勝しているが、4ヶ月前の快勝は今回の大一番での対戦には「全く関係ない」とも同主将は語る。
「(トップリーグでのパナソニック戦は)いいラグビーができて、チームの自信になったゲームだった。ただ、お互い成長しているし、いろんな試合を経て、チームは変化している。初めてやるつもりというか、ファイナルでできる喜びを感じながら、『勝ちたい、優勝したい』という思いをもう一度チームに植え付けて、そのぶつかり合いで上回った方が勝つ」

トップリーグMVPのサントリーWTB中靏。同トライ王としてチームの日本選手権獲りのためさらなる疾走を見せる photo by Kenji Demura

トップリーグMVPのサントリーWTB中靏。同トライ王としてチームの日本選手権獲りのためさらなる疾走を見せる
photo by Kenji Demura

準決勝ではタメ息さえ出るようなスピードが印象的だったパナソニックWTB福岡。中靏とのマッチアップを制して日本一へ photo by Kenji Demura

準決勝ではタメ息さえ出るようなスピードが印象的だったパナソニックWTB福岡。中靏とのマッチアップを制して日本一へ
photo by Kenji Demura

ジョージ・スミス対ポーコック、中靏対福岡
個々のマッチアップも見逃せない濃厚な80分に

一方、対するパナソニックは準決勝でのヤマハ発動機戦では今季最高と言っていいパフォーマンスで、点差以上の快勝で決勝戦へ駒を進めた。
「もちろん1年を通してしっかり準備しているつもりだが、どうしてもシーズンの最後はとても気持ちが入る。今季はトップリーグにデビューした選手が13人。チームがどんどん成長して、エンジョイしているのを見るのは楽しいものだ」
ロビー・ディーンズ監督がそう目を細める内容。

今季のトップリーグでパナソニックが敗れたのは、開幕戦で対戦したヤマハ発動機と前述のサントリー戦のみ。
つまり、準決勝でヤマハ発動機を倒した上で決勝でサントリーと対戦する日本選手権は、パナソニックにとっては最高のリベンジの舞台とも言える。
もっとも、パナソニックサイドがサントリーへのリベンジということばかりにこだわっているわけではない。

「日本選手権、負けたら終わりという試合では、相手どうこうというより、自分たちのしたいことができるかが勝負の鍵。もちろん、一度、負けた相手なので、勝ちたいという思いはあるが、優勝、目の前の勝ちを取りにいくというイメージでやっている。それでサントリーに勝ったら、喜びも後からついてくる」(FL布巻峻介ゲームキャプテン)

「自分たちのしたいこと」という意味では、「DFからのトライが何本か取れた。うちらしいラグビーできた」と、同ゲームキャプテンが喜んだ堅守からのカウンターアタックが準決勝では炸裂。
DFでのターンオーバーで主役となったのは、布巻ゲームキャプテンに、FL西原忠佑、NO8デービッド・ポーコックと並ぶ、驚異のFW第3列。

もちろん、サントリーとしてもパナソニックのFW第3列の仕事人ぶりへの警戒感は隠さない。
「みんな素晴らしい選手だが、ヤマハ発動機戦でのブレイクダウンの攻防を見ていても、ポーコック選手の絡みはインターナショナルなレベル。ブレイクダウンでそういう(ターンオーバー)チャンスをつくってしまうと、自分たちの継続が難しくなる。もう一度、ブレイクダウンのところの精度と、自分たちがゲームコントロールするためには何をすべきなのか、一週間確認していく」(沢木監督)

名前が出たNO8/FLポーコックは、豪州代表でジョージ・スミス(サントリーFL/NO8)の後を継いだと言っていい存在。
沢木監督が言う通り、どの選手も素晴らしいレベルにあるのは確かだが、この新旧豪州代表ボールハンター同士の直接対決は世界中のラグビーファンが一度は見てみたいと思う贅沢なマッチアップであることは間違いない。

さらに、トライ王になったサントリーの中靏隆彰と、ヤマハ発動機戦でも2トライを奪うなど、瞬間的な速さに磨きがかかった印象のパナソニックの福岡堅樹というスピードスターWTB同士の走り合い。
今季絶好調と言っていいサントリーの小野晃征に対して、準決勝で1ヶ月ぶりに復帰して成長した姿を見せたパナソニック山沢拓也、あるいはいきなり決勝の大舞台に戻ってくる可能性もある同ベリック・バーンズの司令塔対決。
共に強力なヤマハ発動機にも組み負けなかったスクラムなどセットプレーはどうなるのか。

今季絶好調のサントリーSO小野。アグレッシブ・アタックの先頭に立ちながらサントリーを2冠に導けるか photo by Kenji Demura

今季絶好調のサントリーSO小野。アグレッシブ・アタックの先頭に立ちながらサントリーを2冠に導けるか
photo by Kenji Demura

準決勝ではヤマハ発動機べテランSO大田尾を圧倒したパナソニックSO山沢。決勝でさらなる成長ぶりを見せられるか photo by Kenji Demura

準決勝ではヤマハ発動機べテランSO大田尾を圧倒したパナソニックSO山沢。決勝でさらなる成長ぶりを見せられるか
photo by Kenji Demura

4ヶ月前の対戦時には「サントリーのアタック、ボールのつなぎがシンプルによかった」(HO堀江翔太主将)と、完敗を認めざるを得なかったパナソニックだが、もちろん、やられっぱなしでシーズンを終えるつもりはないだろう。
FL布巻ゲームキャプテンが「DFは絶対大事」と強調するように、どこかでサントリーのアタックを断ち切ってボールを奪い、準決勝で見せたようなカウンターアタックにもっていけるのか。
それとも、ブレイクダウンを制しながら、サントリーがアタックを継続して、トップリーグと日本選手権のシーズン完全制覇を果たすのか。

どこをどう切り取っても、一瞬たりとも目の離せない濃厚な80分間となる。

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