日本選手権決勝「サントリー 15-10 パナソニック」レビュー

我慢強く戦ったサントリーが4年ぶりとなるトップリーグと日本選手権の2冠を成し遂げた photo by Kenji Demura

我慢強く戦ったサントリーが4年ぶりとなるトップリーグと日本選手権の2冠を成し遂げた
photo by Kenji Demura

text by Kenji Demura

“アグレシッブ・ディフェンス”光ったサントリーが2冠
パナソニックはブレイクダウン支配できずカウンター不発

29日、東京・秩父宮ラグビー場で日本選手権決勝戦が行われ、アグレッシブ・ディフェンスとでも呼びたくなる堅守が光ったサントリーサンゴリアスがパナソニック ワイルドナイツとのせめぎ合いを制して、15—10で勝利。
通算7度目の日本選手権優勝を果たすとともに、4年ぶりとなるトップリーグとの2冠も達成。
完全なる王者として2016-2017シーズンを終えた。

まさに、ザ・ファイナル。

「素晴らしいパナソニックのディフェンスに対して、自分たちの予定したラグビーができなかった」息が詰まるような緊張感が漂う80分間を終えた後、沢木敬介監督がそう振り返ったとおり、確かに、表面的には標榜する“アグレッシブ・アタッキング”ラグビーは不発。最後までワイルドナイツゴールを陥れることはできなかった。
それでも、この日、秩父宮ラグビー場で幸福な緊張感を共有した2万人を超える人たちの中で、サンゴリアスが頂点に立つに相応しいチームではないと感じた人はひとりもいなかっただろう。

「これもラグビー。選手たちはしっかりと我慢してくれた。いろんな状況に対応するトレーニングを積んできた。うまくいかない時にどうするか、次何をするのか。今日は試合中に選手どうしがいいコミュニケーションを取って、それができた。素晴らしい試合だった」(同監督)

SH流主将(写真)ーSO小野のハーフ団を中心としたキックによるゲームメイクも機能した photo by Kenji Demura

SH流主将(写真)ーSO小野のハーフ団を中心としたキックによるゲームメイクも機能した
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“アグレッシブ・ディフェンス”
日本だけではなく、世界トップのタレントと英知も使いながら、スペースを作り出し、相手DF網をズタズタにしていくパナソニックに対して、常に一歩先んじるかたちでリアクションを起こし、近場をこじ開けられず、外側でブレイクされることもなく、カウンターアタックの芽を封印し続けた。
「自分たちのリアクションで相手より走ること。そこで上回れば、ボールもキープできる。走り勝つのはサントリーのプライドでもある。
後半はパナソニックの攻撃でブレイクされることはほとんどなかった」
試合後、しっかり前を見つめてそう語ったSH流大主将の言葉どおり、パナソニックのトライを出会い頭の事故とも言えるような、LOヒーナン ダニエルのキックチャージからの1本に抑えた。

一方、アタックに関しては、「ゲームプランとは違った」と同主将は振り返った。
「パナソニックはディフェンスが広くてワイドに立つ。そこに逃げずに、まずダイレクトプレーでブレイクを狙った。前半、何度かうまく行ったところはあったが、その後はラインブレイクの後のボールの動かし方で、うまくいかないところがあった」

「うまくいった」象徴が、前半17分の先制PGにつながった場面。
自陣10m付近のスクラムから、CTBデレック・カーペンターがタテを突いた後、ラックサイドをWTB中靏隆彰がまっすぐに抜けて、敵陣22m付近へ。
その後、SO小野晃征がパナソニックNO8デービッド・ポーコックに絡まれるが、2人目、3人目のサポートが効いて、PKを獲得。
小野自身が確実にPGを決めた。

その小野自身、「サントリーはこの数年間、ボールを持っていないと相手の流れになる場面が多かったのが、今シーズンはボールを持っていなくてもプレッシャーをかけ続けられるようになった」と語るとおり、なかなか決定的なチャンスがない中、しっかりキックも使いながら、DFでプレッシャーをかけ続けて、「ファイナルは1点差でも勝つことが大事」(SH流主将)という“ザ・ファイナル”ラグビーとでも言えそうな戦いを続けた。

前半20分にパナソニックSO山沢拓也が自陣から蹴ったショートパントボールを自ら確保してチャンスをつかみ、当人のPGで同点に追いつき、試合は3−3の同点のまま後半へ。

激しいタックルでパナソニックCTB林に浴びせるサントリーFB松島とFLスミス。DFの勝利でもあった photo by Kenji Demura

激しいタックルでパナソニックCTB林に浴びせるサントリーFB松島とFLスミス。DFの勝利でもあった
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「ちょっとの差」を制するのが“ザ・ファイナル”の戦い
ノートライながら我慢のラグビーを続けて4年ぶり頂点へ

「ディシプリンを意識して、ノーペナルティで敵陣に行けば、スコアするチャンスはある。ハーフタイムでも、しっかり我慢し続けることを確認した」(流主将)

後半16分に同主将のキックをチャージされての失トライはあったものの、「パナソニックのいいDFラインがあって、攻めてもプレッシャーを受けるだけだったので、蹴ってプレッシャーを変えよう」(FB松島幸太朗)というキッキングゲームもうまく機能させながら、相手にプレッシャーをかけていくスマートなゲームプランを徹底。パナソニックに決定的なチャンスを与えずに、後半は9分、14分、20分、25分とPGでの加点を続けた。

「ボールの継続が難しかったが、ペナルティをとって、スコアに持っていけた。ベストの判断だったと思う。
途中で1本、チャージされたが、スコアした後のキックオフをしっかりマイボールにして、自分たちが意図したキックを蹴ることができていた」(沢木監督)

シーズンを通してチームを前進させる牽引役を果たしたLO真壁の存在も大きかった photo by Kenji Demura

シーズンを通してチームを前進させる牽引役を果たしたLO真壁の存在も大きかった
photo by Kenji Demura

何度もハードなタックルで敵のチャンスを潰したFLジョージ・スミスを中心にパナソニックNO8ポーコックに仕事をさせなかったFW第3列、ボールを持てば重量感のあるパナソニックFW陣に対しても確実に前に出たLO真壁伸弥、相変わらず安定したスクラムを組み続けたFW第1列など、チーム全体でのハードワークぶりは最後まで衰えず、パナソニックにボールを与えてもパニックになるようなシーンは見られなかった。

試合最終盤、最後のチャンスとばかりに飛び道具に賭けてきたようなパナソニックSO山沢からWTB福岡堅樹への絶妙と思われたキックパスも「堅樹がボールを蹴ってくれという要求をしていて、10番とアイコンタクトするのもわかったので、絶対くると判断していた」というFB松島が冷静な読みと抜群の身体能力を生かしてクリーンキャッチしてピンチを防ぐなど、多彩なはずのパナソニックのアタックを完全に封じた。

サントリーCTB陣に突進を止められるパナソニックNO8ポーコック。徹底マークに遭い、苦しんだ photo by Kenji Demura

サントリーCTB陣に突進を止められるパナソニックNO8ポーコック。徹底マークに遭い、苦しんだ
photo by Kenji Demura

「結果は残念だが、お互いちょっとのことで勝敗は動く試合。本当にちょっとしたところの差だったと思う。サントリーのような素晴らしいチームと最後まで戦えたことを誇りに思う」
パナソニックFL布巻峻介ゲームキャプテンが語った実感は、この日、秩父宮ラグビー場をフルハウスにした多くのファンの実感でもあるだろう。
一瞬たりとも気の抜けない激戦であり、接戦を「本当にちょっとの差」で制したサントリーが4年ぶりとなる2冠を達成するかたちで、2016-2017年シーズンは幕を閉じた。

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