トップリーグ 2017-2018 ウィンドウマンス座談会1

前編=第9節までのレッドカンファレンスを振り返る

貫禄を見せ続けた昨季の王者サントリー
神戸製鋼、トヨタ自動車が熾烈な2位争い

10月21、22日に行われた第9節を最後に5週間に渡るウィンドウマンスの休止期間に突入したジャパンラグビー トップリーグ2017-2018。
レギュラーシーズンで言うなら約7割、順位決定トーナメントを合わせても6割が終了した格好だが、今季ここまでの各チームの戦いぶり、そして12月2日のリーグ戦再開後の注目点などに関して、日本ラグビーフットボール協会内で「Top League Next」というトップリーグの将来設計を牽引する立場にある瓜生靖治氏、そしてJ SPORTSのラグビー解説でもお馴染みの後藤翔太氏という元トップリーガーのふたりを迎えて、熱く語り合ってもらった。
恒例のウィンドウマンス座談会コラムとして、前編、中編、後編の計3回にわたって掲載。
連載1回目は、レッドカンファレンス8チームの9節までの戦いぶりを振り返る。

(司会・構成 出村謙知)

──レッドカンファレンスの8チームの中では、ウィンドウマンス入り直前の第9節でパナソニックに敗れて1敗は喫したとはいえ、昨年の覇者サントリーの充実ぶりがひと際目立ちました。

瓜生 自信を持っているのは感じます。昨季チャンピオンチームになったことでサントリーらしいプライドが戻ってきた。昨シーズンは少しチャレンジャーという意識が強かったのが今年は王者として戦っている印象が強いですね。
どの選手が出場しても同じようなプレーができるのはチャンピオンチームの強みであるようにも思いますが、それを徹底できている。

後藤 サントリーの選手と試合終わった後に話をした時に、規律の部分では絶対に負けないと言っていた。それくらい、自分たちが何をやらなければいけないかにしっかりフォーカスを当てて、しっかり取り組んでいけている。それは、やはり王者のプライドというあたりに起因するものじゃないでしょうか。

──今シーズンは最後に順位決定トーナメントがありますし、今の時点ではパナソニックに対する敗戦もあまり気にしなくていいでしょうか。

瓜生 そう思います。パナソニック戦も内容的には自分たちのやるべきことは徹底できていたし、もう一度、試合をしたらどっちが勝つか全くわからないくらい実力は拮抗している。

後藤 パナソニック戦の後の沢木(敬介=サントリー監督)さんのコメントに、「人って失敗しないとわからない」というのがあって、まさにその通りだと思う。
去年は勝ち続けて、この前のパナソニック戦で負けたのが約2年ぶり。勝ちながら成長できるのであれば、それがベストですけど、負けないとわからないこと、失敗しないとわからないこともある。シーズン途中でパナソニックに一度負けて、それでも1〜4位順位決定トーナメントに残れば、優勝を狙う状況でまたプレーする機会がある。そういう意味では、パナソニック戦で逆にアドバンテージをもらえたのでは。

──パナソニック戦の前のトヨタ自動車戦でも追い詰められながら、最後の20分間で18点差をひっくり返して1点差での逆転勝ち。その時、沢木監督が言っていたのは、「勝敗を分けたのは練習量の差」ということ。元々、そういうハードワークするカルチャーを持つチームがウィンドウマンス前にパナソニックに敗れたことで、中断期間はもう一度チームを鍛え直す厳しい練習が行われそうですね。

瓜生 だと思います。エディーさんの時からそうですが、練習やってなんぼというのがサントリーにはある。そこで自信をつけるというスタイル。みんなやらないと落ち着かない感じがあると思う。

──普段から練習で一番良かった選手を使うという方針が公言されていますし、ポジション争いがすごく激しい。その結果、戦力にも厚みが出てきているように思うのですが。

後藤 それが組織として勝つためのベースなんじゃないかなというのは思います。沢木さん自身も組織のトップとしての役割を意識的にこなしているのではないでしょうか。振る舞いとか、選手との関係とか。そういうことをしっかり意識しながらチームをつくっている感じがします。

パナソニックに敗れたものの、王者らしい強さを見せたサントリー。どんな状況でもゲインするFB松島の存在は特別 photo by Kenji Demura

パナソニックに敗れたものの、王者らしい強さを見せたサントリー。どんな状況でもゲインするFB松島の存在は特別
photo by Kenji Demura

──パナソニックに敗れたものの、チャンピオンチームとしてさらに成長している印象のサントリーをレッドカンファレンスで追う存在としては、まずは2位の神戸製鋼ということになると思うのですが、第6節でヤマハ発動機に勝つなど開幕から6連勝した後、キヤノン、パナソニック、リコーに敗れて3敗となりました。今季の神戸製鋼に関してOBでもある後藤さんはどう評価していますか?

後藤 結果のとおり、前半戦の前半はいいなという印象だったのですが、勝ち続けていた時はハーフ団が良かった。SHアンドリュー・エリスとSOイーリニコラスの2人がゲームをコントロールする能力が高くて、彼らによってそれこそ1試合に15点から20点くらいは点差をつけられるくらい、その存在が大きかった。
それだけに、イーリが抜けたのは痛かった。実は昨シーズンもそうだったので、今シーズンはそうならなければいいなと思っていたのですが、やはり同じような状況になった。
そういう意味では、メンバーは揃っているように感じる神戸製鋼ですが、まだ個に依存している部分が意外と大きいというのは否めないなという気がします。

──確かにイーリのケガは痛かったですよね。

後藤 彼は、パナソニックでの経験もありますし、トップチームのSH、SOがどういうゲームコントロールしていくかという部分に関して偏差値が高いと思います。そういう存在がいるというのが強みだったのに、いなくなってその部分がそのままマイナスになってしまった感じですね。
そういう個人の持っている経験を生かしたプレーをシステムとしてどうチームに落とし込んでいくのか。そういうチーム全体の土台の底上げが必要なのかなという気がします。

中盤戦以降SOイーリの故障が響いた2位の神戸製鋼。随所にいいプレーを見せたクボタだが7位に沈んでいる photo by Kenji Demura

中盤戦以降SOイーリの故障が響いた2位の神戸製鋼。随所にいいプレーを見せたクボタだが7位に沈んでいる
photo by Kenji Demura

瓜生 やはり、個に依存しすぎている面が大きいような感じがします。ディフェンスでなぜそんなに簡単に抜かれるの? と淡白になる時がある。しっかり前で止められている時はすごくいいラグビーをするし、力があるのは間違いない。勝ち続けている時も規律の部分とか整備されればもっと良くなるのにと思っていたのですが、結局、負けた試合では変なミスが多かったりする。
ラグビーというスポーツをやっている以上、ミスは必ず起こり得るわけで、ただミスの仕方というのがあるというのは思っていて、少し簡単なミスが多かったかなという印象が神戸製鋼に関してはあります。

後藤 個々のポテンシャルは高いので、ちょっとしたきっかけで勢いを取り戻す可能性は十分ある。
どのチームも神戸製鋼の個々の能力が高いのはわかっているので、油断はしていない。「神戸、嫌だな」とは思っているはずです。

──その神戸製鋼を猛追するかたちになってきた現在3位のトヨタ自動車ですが、南アフリカ代表監督としてワールドカップでの優勝経験を持つジェイク・ホワイトが指揮を執るようになって、いきなり新人の姫野(和樹=FL)をキャプテンに指名するなど、チームが生まれ変わったという印象が強いし、その一方でトヨタらしい力強いラグビーが復活しているようにも感じるのですが。

瓜生 チームがまとまってきたように思います。トヨタ自動車の選手や関係者などに話を聞くと、ジェイク・ホワイトはチームのまとめ方がうまいし、選手の乗せ方がうまいという意見が多い。実際そういう部分が試合にも出ているシーズンだなという感じがします。

後藤 ジェイク・ホワイトはとにかく明確。本当にシンプルなラグビー。だからこそ、チームの中でそれが正解なのか正解じゃないのかも明確で、常に競争環境が保たれる。練習で良かったら上がるし、良くなかったら下げられる。
今季ここまで同じスタメンは一度もなくて、それくらい競争が激しいし、あえて激化させているのだとも思います。シンプルなスタイ
ルだからこそ、全選手が明確な基準に対してチャレンジできる。そういう競争環境をジェイク・ホワイトはつくっている気がします。

瓜生 たとえば、WTBのヘンリージェイミー。大学の時から見ているのですが、今年トヨタ自動車に入って、一生懸命チェイスするし、ひたむきにタックルして、ハイボールにも積極的に絡んでいく。ちょっと印象が変わりました。そういうあたりにも、ジェイク・ホワイトのすごさを感じます。

後藤 最近思うのは、ラグビーは70m×100mの枠は決まっているし、前に投げられない。そういう限定条件の中で行われるスポーツなので、新しい戦術が出てきてもいまは一瞬で世界に発信されていって、すぐにその差は埋められてしまうということ。なので、どれだけ強い組織を作り上げることができるかがより重要なのかなという気がします。ジェイク・ホワイトの言っているのは、戦術論的にはわかりやすいシンプルなもの。
それでも、組織メンバーが競争力を高めて、チームが活性化されて、全体のパフォーマンスが上がっていく。
いまのトヨタ自動車はそういう好例なのかなという気がしています。

──現在の神戸製鋼との勝ち点差も1だし、その神戸製鋼との直接対決も最終節に控えているだけに、トヨタ自動車が7シーズンぶりのトップ4入りを果たす可能性は十分ありそうです。

新人ながらキャプテンに指名されたFL姫野はトヨタ自動車をベスト4に導けるか photo by Kenji Demura

新人ながらキャプテンに指名されたFL姫野はトヨタ自動車をベスト4に導けるか
photo by Kenji Demura

昇格チームながらインパクトを残す
戦いぶりで4勝を挙げたNTTドコモ

──続く4位につけているのは、やや意外な感じもしますが東芝。プレシーズンでは前評判が高くて、復活のシーズンとなる予感も漂っていたのですが、第2節から4連敗するなど、序盤戦で躓きました。

後藤 シーズン開幕時点ではかなり自信を持って臨んでいた様子だったのに、最初に上位チームとの対戦が続いたのもあって、それできっかけをつかめなかった。それでも、瀬川さんのやろうとしているラグビーというか、東芝本来の強みを出すためのトレーニングはかなりしているというのは、話を聞いていても感じます。しっかりとコンタクトで勝ち続けるためのトレーニングというのは、たくさんの時間を重ねないとできない部分。そういう部分はぶれていない。試合ごとの変化によって、濃淡というか強弱をつけられる戦いができれば、今後の東芝は楽しみだなという気はします。

──新キャプテンに指名したカフイがケガするという不運もありました。

瓜生 選手からの信頼感も高いように思います。ただ、今までのカラーを変える為にももっとチームを活性化していく方向性にふっても良かった気もします。

──ただ、東芝も間違いなくウィンドウマンス中にもう一度、厳しく鍛え上げるでしょうし、再開後の初戦でヤマハ発動機に勝ったりすると、後半戦は勢いに乗る可能性もあるのではないでしょうか。

後藤 そうですね。でも、東芝はヤマハ発動機が苦手のような気がする。過去の対戦だと、「東芝ってこうだから」と清宮(克幸=ヤマハ発動機監督)さんが言っていたことに東芝がそのままハマってしまうケースがあった(苦笑)。

瓜生 ここまで取り上げてきた4チームって、2つの色に分かれると思います。
サントリーとトヨタ自動車はチーム力の平均値を上げたいと考えて、あえて若いキャプテンを指名して、チームを活性化させようとしているのかなと。伝統あるチームでもあるので、マンネリ化を避けるために若手の力を使って平均値を上げようとしているのかな、と。
その一方で、神戸製鋼と東芝というのは、まだベテランが中心になってやっているので、マンネリ化を解消できていないように感じます。チーム力の平均値が変わらないので、他のチームの平均値と拮抗してしまうと負けてしまう。

──5位はNTTコム。第9節ではコカ・コーラに大勝したりしているんですが、リコー、サントリー、ヤマハ発動機、パナソニックに負けました。

瓜生 チームとしてやることが明確になっている感じはありますよね。みんながわかっている。コンタクトエリアも強いですし、ターンオーバーもうまくやる。ハマった時のアタックも目を見張るものがある。
でも、強い相手とやると、自分たちの思い通りにはプレーできないわけで、そうなった時の打開策がちょっと見えない。

──元スタッフに聞いたら、「ここで勝つんだというのがあまりないチーム」というようなことを言っていました。グラウンドのどこからでもアタックするラグビーを指向しているけど、じゃあどこで自分たちの優位性を出すのかというと、実はあまりはっきりしていない。

後藤 ただ、ケガ人も多かったみたいですし、
再開後の神戸製鋼戦でしっくりくれば、終盤上がっていく可能性もありそうですね。

5位のNTTコムよりも下位だが、昇格チームながら4勝を挙げたNTTドコモの善戦ぶりは光った photo by Kenji Demura

5位のNTTコムよりも下位だが、昇格チームながら4勝を挙げたNTTドコモの善戦ぶりは光った
photo by Kenji Demura

──そのNTTコムには“ダービー”戦で敗れたものの、NTTドコモは昇格チームながら4勝を挙げています。

後藤 敗れはしたけど、東芝にも惜しかった。昇格チームだけど、トップリーグの経験はあるので、トップリーグでの戦い方は知ってはいたと思うんですよね。あれだけ勝ち星を積み重ねられるというのは、厳しい努力を続けてきた賜物でしょう。

──インパクトある外国人選手も揃っています。

後藤 フィルヨーン(リアン=FB)はいい。一番後ろから前の14人をコントロールして、後ろにボールが飛んできても安定して処理できる。彼の存在は大きい。

瓜生 イオンギがLOで使われているのもいい。No8の場合はどっしり構えて、行く時は行くよという感じだったのが、LOだと地味なプレーが目立ってきた。そういう選手がひたむきにプレーし出すと、チーム全体が活性化し始める。
昇格したてのチームの場合、一発でトライを取られたり、安定しない場合が多い。そこをいかに安定させるかがキーだと思っていて、いまのNTTドコモには、その安定力がついてきた気がします。

──共に3勝ずつを挙げながらも、クボタと近鉄は7位、8位という下位に甘んじています。

後藤 クボタは初戦のパナソニック戦はめちゃくちゃ頑張った。去年も最初の東芝戦がそうだった。全体としてはいいラグビーをするんだけど、最後、相手を仕留め切る武器に欠けるのかな。パナソニックとあれだけの試合ができるので、ベースはしっかりある。まじめだし。
ゲームの綾を自分たちの方に持ってくる何かがあれば、もっと上にいけるチームのように思います。

瓜生 近鉄に関しては、今シーズンはSOに
野口大輔が入ったり、新しい動きもあるんですが、全体としては活性化しきれていないかなという印象ですね。開幕戦を大逆転でゲームをものにして、乗ってくるかなと思ったんですが、まだ上昇気流には乗っていない感じですね。

──シーズン終盤戦こそ、関西のチームらしい乗り出したら止まらないイケイケなラグビーの復活を望みたいですね。

(以下、連載第2回に続く)

瓜生靖治(うりゅう やすはる) 1980年生まれ、福岡県出身。小倉高、慶應義塾大を経て、2002年にサントリー入社。2003年9月13日に国立競技場で行われた記念すべきトップリーグ創設後最初の試合(サントリー - 神戸製鋼)にWTBで先発出場するなど、サントリーの主力として活躍した後、2006年に神戸製鋼に移籍。さらに2008年にリコー、2009年にキヤノンと、日本人選手としては珍しく4つのトップリーグチームでプレー。2012年に現役を引退した。日本代表としては2000年のサモア戦で初キャップを獲得(計2キャップ=CTB)。現在は日本ラグビーフットボール協会Top League Next PROJECT MANAGER

瓜生靖治(うりゅう やすはる)
1980年生まれ、福岡県出身。小倉高、慶應義塾大を経て、2002年にサントリー入社。2003年9月13日に国立競技場で行われた記念すべきトップリーグ創設後最初の試合(サントリー – 神戸製鋼)にWTBで先発出場するなど、サントリーの主力として活躍した後、2006年に神戸製鋼に移籍。さらに2008年にリコー、2009年にキヤノンと、日本人選手としては珍しく4つのトップリーグチームでプレー。2012年に現役を引退した。日本代表としては2000年のサモア戦で初キャップを獲得(計2キャップ=CTB)。現在は日本ラグビーフットボール協会Top League Next PROJECT MANAGER

後藤翔太(ごとう しょうた) 1983年生まれ、大分県出身。桐蔭学園高、早稲田大を経て2005年に神戸製鋼入社。1年目よりレギュラーSHとして活躍し、2005 - 2006シーズンのトップリーグ新人王に。同年のウルグアイ戦で日本代表初キャップを獲得(計8キャップ)。2012年に現役を引退し、2013年から3年間、追手門学院大女子7人制ラグビー部ヘッドコーチを務め、現在は株式会社識学のスポーツ事業部長として様々なスポーツ分野で組織をよくするためのトレーニング、サポート事業を行う傍ら、J SPORTSなどでラグビー解説者としても活躍

後藤翔太(ごとう しょうた)
1983年生まれ、大分県出身。桐蔭学園高、早稲田大を経て2005年に神戸製鋼入社。1年目よりレギュラーSHとして活躍し、2005 – 2006シーズンのトップリーグ新人王に。同年のウルグアイ戦で日本代表初キャップを獲得(計8キャップ)。2012年に現役を引退し、2013年から3年間、追手門学院大女子7人制ラグビー部ヘッドコーチを務め、現在は株式会社識学のスポーツ事業部長として様々なスポーツ分野で組織をよくするためのトレーニング、サポート事業を行う傍ら、J SPORTSなどでラグビー解説者としても活躍

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