マッチ&会見リポート「プレーオフトーナメント マイクロソフトカップ ファイナル」(東芝 17-6 三洋電機)

マイクロソフトカップ
東芝ブレイブルーパス 17-6 三洋電機ワイルドナイツ 東芝ブレイブルーパス 17-6 三洋電機ワイルドナイツ 東芝ブレイブルーパス 17-6 三洋電機ワイルドナイツ 東芝ブレイブルーパス 17-6 三洋電機ワイルドナイツ
マッチリポート
東芝ブレイブルーパス 17-6 三洋電機ワイルドナイツ
(マイクロソフトカップ ファイナル/2009年2月8日 at東京・秩父宮ラグビー場)

赤いジャージの男たちがメインスタンド前に整列し、深々と頭を下げた。続いてバックスタンドにも一礼。17,000人を超える秩父宮のファンから拍手と激励のコールが返ってくる。全力で戦うことを許された東芝ブレイブルーパスのフィフティーンがグラウンドに散る。一方、白のセカンドジャージを身に着けた三洋電機ワイルドナイツは風下側に陣取る。午後2時4分、復活した三洋のSOトニー・ブラウンのキックオフで、80分の激闘が始まった。

前半、風上に立った東芝の出足が鋭い。SOヒルのキックを起点に接点を支配する。しかし、先取点を挙げたのは三洋だった。3分、22m右隅で得たペナルティーを三洋CTB入江が確実に決め、3点をゲット。ここまでは20日前のトップリーグ最終節と同じ展開だ。激しい攻防戦のなか8分、東芝HO猪口が負傷退場する。
東芝は常にボールを動かし、ブレイクダウンで優位に立っていた。前半の70%以上を三洋陣内で戦い攻め続けるが、三洋の誇るバックスリーが鉄壁のディフェンスでこれに応じる。凄まじいアタック&ディフェンスの応酬に大観衆も酔いしれていた。

23分、ゲームが動いた。三洋陣内22m付近で東芝SOヒルの上げたハイパントを三洋FB田井中が落球、こぼれ球をSOブラウンが拾いWTB北川にパスするが、これを東芝CTB仙波がインターセプト、FB吉田がつなぎ中央にトライ、ゴールも決まり逆転に成功。
さらに36分、東芝は三洋陣22m手前でラックを形成、SH藤井とLO大野のループからダミー一人を飛ばしキャプテンのWTB廣瀬にパスが通る。最後は三洋No.8龍コリニアシの執拗なタックルを跳ね除け右中間にトライ、東芝が三洋を引き離す(ゴール不成功)。
40分、三洋CTB入江が10m付近左中間からPGを決め12-6と追い上げたところで前半を終えた。

後半、強風の風上となり逆襲が期待される三洋だが、グラウンドに名手ブラウンの姿はなかった。12番の入江がSOに回り、キャプテンの榎本がCTBに入る布陣で東芝に挑む。
風下の東芝はキックを多用せず接点に集中しボールをつなぐ。両チームの激しい攻防が続くが、点数に動きはない。三洋は13分、ゴール前ラインアウトからラックを形成しSH田中→SO入江とパスが通るがCTB榎本のノックオンでトライチャンスを逸した。一方東芝も23分相手ゴール前に迫るが、CTB冨岡、FLベイツの突進も三洋の強烈なタックルに阻まれる。
攻める魂と守る魂が正面からぶつかり合う文字通りの頂上決戦、決して静かではない「激しい均衡」はこの両チームだからこそ成立するのだろう。

32分、東芝の松田がCTBに入り大きな声援を受けたところから、ゲームは最終のクライマックスへと突入する。35分、FW勝負に徹する東芝が三洋ゴール前に殺到する。赤い塊が徐々にゴールポストに近づき、39分ついにポストをグラつかせながらインゴールになだれ込んだ。ここで相田レフリーがTMO(テレビマッチオフィシャル)によるビデオ判定を要請、グラウンディングが確認できないため三洋ボールの5mスクラムとなった。SH田中のボールイン直前に40分経過を知らせるホーンが鳴る。ラストのワン・プレーに逆転を賭ける三洋はBKに展開するが、自陣インゴールでCTB霜村が痛恨のノックオン、東芝プレーヤーがなだれ込む。再びTMOのビデオ判定の結果、WTB廣瀬のトライが認められた。ゴール不成功17-6となったところで80分間の激闘に決着がついた。
ノーサイドの瞬間、勝利した赤いジャージは秩父宮のグウランドで静かに抱擁し涙を流していた。(康乗 克之)

東芝ブレイブルーパス 17-6 三洋電機ワイルドナイツ 東芝ブレイブルーパス 17-6 三洋電機ワイルドナイツ 東芝ブレイブルーパス 17-6 三洋電機ワイルドナイツ 東芝ブレイブルーパス 17-6 三洋電機ワイルドナイツ

会見リポート

三洋電機ワイルドナイツ
◎三洋電機ワイルドナイツ
○飯島均監督
「非常に残念な試合でした。東芝さんのブレイクダウンの圧力に要所要所でやられました。東芝さんは良い試合をしたと思います。三洋電機もよくディフェンスしましたが、まだちょっと向こうの仕掛けを受けてしまっていました。ゲームも思ったようにコントロールできないところもありました。非常に残念ですが、1週間、もう一度よく反省して、次の試合に臨みたいと思います」

──後半開始からトニー・ブラウンを下げたが?
「身体のほうはだいぶ戻っていますが、フィットネスの部分でまだ本来のところまで戻っていません。上から見ていて、前半の終わり頃から少し動きが落ちていたように感じたので交代させました。もう少し、キッキングゲームになると思っていましたが、思ったよりもコンタクトが多く、本人もやらなくてはいけないという気持ちがあるのか、どんどん(密集に)入って行くので、コンタクトも多くなってしまったし、ウイングのところまで(カバーに)戻れなくなっていたので代えました」

──田井中選手とトニー・ブラウン選手の交代でロングキッカーが1枚になってしまったが?
「田井中もケガ明けでフィットネスが厳しく、足がつる問題がありました。少し、動きも落ちてきたので交代し、インパクトプレーヤーである吉田尚史を入れました。負けていたし、彼はトライを取れる選手でもありますので」

──リーグ戦の東芝戦から最も修正した点は?
「東芝戦は敵陣でエリアゲームをしないと厳しいのですが、今日は風上でも風下でも、ヒル選手のキックや廣瀬選手のカウンターなどもあってその部分でエリアを取れませんでした。陣地は、コイントスで東芝が勝って風上を選びました。うちは、コイントスに勝っていればいつも風上を選びますから。リーグ戦の時とは同じメンバーではないので、キッカーを3枚揃えたこのやり方でできるだろうと思っていました。しかし、非常に風も強く、コントロールされなかったと思います」

○榎本淳平キャプテン
「監督の言われたとおり、本当にとても悔しい試合でした。チャンスもあったけれども、ものにできなかったです。しっかり、ここから立て直して、次の日本選手権に臨みたいと思います」

──実際に戦ってみて、東芝との差を感じたのは?
「ブレイクダウンに関しては、リーグ戦の時と比べてここまで負けているとは思いませんでした。うちもかなり修正できたと思います。ただ、最初からもちろん勝つつもりで臨んではいたんですが、東芝さんの何が何でも勝つという執念みたいなものが最後の最後まで出ていたのかなと思います」

──三洋もターンオーバーしていたが、東芝のディフェンスが非常によかったと思うが?
「ターンオーバー後、東芝さんの集散がすごく早かったと思います。うちはワイドに北川とかも残っていましたが、そこまで持って行く前に圧力がありました」

──後半10分くらいに、相手陣でPGを狙えそうな場面もあったが?
「三宅や入江と話し合って、トライを獲りに行こうという判断でした。ラインアウトからのモールと近場の攻撃で行こうと、あせらず、チームとしての勢いをぶつけたかったので。早い段階でしたので、トライまで行けなかったけれど、そこまでショックはありませんでした」

──東芝もPGをねらわなかったが?
「その時の状況というか、狙わずに嬉しかったこともあるし、後半、ラインアウトで圧力をかけられるのも嫌だったし‥‥」

──後半はずっと自陣での戦いだったが?
「確かにプレッシャーはあったんですが、とにかく『最後の笛がなる時に1点勝てればいい』とチームで話し合っていたので、最後までいけると、チャンスはあると思っていました」

──最後の1プレーで、マイボールの場面もあったが?
「最後のスクラムでホーンが鳴って、もうキックは不可能で、ボールを継続するしかなくて‥‥。東芝さんのプレッシャーがものすごかったです」
東芝ブレイブルーパス 17-6 三洋電機ワイルドナイツ 東芝ブレイブルーパス 17-6 三洋電機ワイルドナイツ 東芝ブレイブルーパス 17-6 三洋電機ワイルドナイツ 東芝ブレイブルーパス 17-6 三洋電機ワイルドナイツ
東芝ブレイブルーパス

◎東芝ブレイブルーパス
○和田賢一監督代行
「試合の感想を申し上げる前に、まずは今回の件で今季2度にわたってラグビーを裏切ってしまったことをお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした」
「試合に関しては予想通りのクロスゲームで、ベストメンバーの三洋さんに対して、うちも現時点でのベストメンバーでぶつかりました。プレッシャー、ブレイクダウン、キックを含めて、しんどい中でやらなくてはいけないことを東芝の選手がやりきってくれたと感じています」

○廣瀬俊朗キャプテン
「まず、ラグビー界のみならずスポーツ界全体を揺るがすようなことになり申し訳なく思っています。こんな状況でも試合をさせてくれた日本ラグビー協会、会社の皆様をはじめ、多くの皆様に感謝したいと思います」
「ゲームに関しては、マイクロソフトカップファイナルらしい、ひきしまったいい試合になったと思います。試合前に、三洋さんにあいさつに行ったときに『いろいろあったけれど、本当に大変ですね、お互いにいい試合をしましょう』と言ってもらえて、本当にうれしかったし、感謝しています。またトニー・ブラウンが大きなケガの後だったのに出てくれたことにも感謝しています。昨年のマイクロソフトカップで敗れたリベンジを果たせる機会だと、大きなモチベーションになりました。本当に三洋さんには感謝しています」

──前半36分のトライは?
「もちろん、狙っていましたし、その前に僕がいくつかボールを落としたりしてチームに迷惑もかけていたので、ここは一発トライを取りたいと思っていました。前半は風上でしたから、2本獲りたいと思っていましたが、最後に4分でトライを獲ろうと話していて獲れたのは、本当によかったなと思います。東芝は攻め続けてリズムが出るチームだと、特にリーグ戦の後半から認識していましたので、安易に狙わずに攻め続けようと、それが後半20分過ぎくらいから生きてくると思っていました。風下になってからの守備でも、今季は瀬川さんがディフェンスでもアクションしていこうと言い続けていましたが、そのプランがここに来て生きてきたと思います。途中からがディフェンスしていても、そんなに怖いなという感覚がなくなっていました」

──トライの時のループは、サインどおりか?
「(和田監督代行に)これ、言っていいんですかね?(笑)そうです。新しいねらいのサインプレーです。今回作りました。三洋電機のディフェンスなども、もちろん考えてのプレーです」

──キックオフの時間まで選手の様子が違っていたが?
「リーグ戦のサントリー戦もそうですが、もし、変な試合をすれば、僕等は終わってしまうという危機感はものすごくありました。僕たちが1年間やってきたことは間違いないんだということを何としても証明したかったので。やっぱり昨年のマイクロソフトカップで三洋さんに敗れて終わったという、あの悔しさがあったので、それが大きな要因になりました」

──トニー・ブラウン選手の印象は?
「彼の去年の全盛期のプレーまではほど遠いと感じました。でも、彼は三洋さんにとっては大黒柱のような存在なので、落ち着きというかチームに芯が通って見えました」

──マイクロソフトカップMVPを受賞してのコメントを
「本当にうれしいの一言です。シーズン中にも1回もマン・オブ・ザ・マッチがなかったので。僕がMVPを取れたというのは、たまたまです。みんなの思いが獲ったというか、最後のトライもみんなのディフェンスがあって最後に僕のところにボールが来たので。僕が獲ったというよりも、みんなで取ったMVPだと思います」

──後半の最後に、PGをねらわなかったのは?
「やっぱりトライが欲しかったんです。トライ一つ獲れれば、試合も決まるかなと。それに、安易に3点よりも敵陣にずっといることで、三洋さんにプレッシャーを与えたかったので。そうすればどこかで必ずチャンスがあると信じていました」

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